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遠く澄んだ空を 見上げ流した涙は あなたを想う この胸の カケラ 流れ星 めぐり合えた奇跡 かけがえのない想い出 記憶のページ 綴ってく 大切に あの日の (keep on believing) まなざし (keep on dreaming) やさしさ (true love) 夢を (true heart) 抱いて (pure and true tears) 信じ続けて いつも遠くで見た微笑を 隣に感じていたい 今あふれだした 想いを伝えたくて 心をつなぎたくて ケンカして別れたクリスマスきれいな街 あなたを想う この胸は 切なくて 流した (keep on believing) 涙の (keep on dreaming) 数だけ (true love) 心 (true heart) やさしく (pure and true tears) なれるはずだよ 振り返り探した雪の中で 無くして気づく想いを 今、伝えたくて本当に愛してると 真実の想いを・・・・・・ 肩に降り積もる雪、ここで待っててくれたね そっと私を抱いて泣いた true tearsいつも私を包んでてね 一緒に夢をみよう ただ、愛おしくて 二人で歩んでゆく かけがえのない愛で
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前truetearsVSプレデター5 真っ白く連なる雪原の道で、一人の少年が自転車を転がしている。 空からキラキラと輝く結晶が舞い、辺りの家々ははシンシンと静かに眠っていた。 と、彼の背中を眩いライトが黄色く照らす。 「あら、眞ちゃん?こんな遅くに出歩くなんてダメじゃない」 ミニバンが少年の隣まで来ると、運転席の窓から女性が顔を出した。 その容姿はまだ20代といっても通じる美貌を維持しており、妖艶とさえいえた。 「送ってあげるから上に自転車載せなさい」 言われるまでもなく、助手席から坊主頭の少年が降りてきて、 眞一郎のハンドルをとる。 「ささ、どうぞ、坊ちゃんは助手席に。後は自分がやります」 自転車というのは、転がすには容易にできてるが、実はかなり重い。 しかし、普段から力仕事をこなしてる故か、軽々とそれを持ち上げ、 荷台にスルリと載せてしまう。 「・・・ん?」 ふと、眞一郎が違和感を覚える。 どこか何かがズレたような、だが確かにひっかかりを覚える。 「どうしたの眞ちゃん?」 「何か不味かったですか坊ちゃん?」 二人が口々に尋ねるが、なにか不快なことがあるわけではない。 長いあいだ、寒空の下を彷徨ってきたのだから、 いまようやく家族と会えてとてもホッとしているのだ。 それなのに、どこか合点のいかないこの感じ。 「比呂美がいないんだけど・・・知らないかな?」 様子から察するに期待はできないが、一応聞いてみる。 「さぁ、見つからないわ。明朝まで戻らなければ警察に連絡してみましょう」 「そっか・・・」 やはり見つかっていない。が、あの母が彼女を探しにでてくれただけでも嬉しいことだ。 それにもし危ない事件に遭遇したとして、 最近の子が一晩戻らないだけで警察はすぐには動いてくれないだろうし、 自分なりの当ては散々探したのだ。ここはやはり、一度家に戻って体勢を整えたほうがいい。 「じゃ、ほら早く乗りなさい」 「うん、・・・あ」 助手席に回ろうと丁稚の横を通ったとき、さきほどの違和感に気付いた。 彼の体から母親の臭いがするのだ。 香水などの類ではなく、普段慣れしたんで意識もしない、肉親独特の香り。 「どうかしました?」 丁稚が怪訝な顔をするが、それには応えず眞一郎はしばし熟考する。 一緒の車で、一緒に動き回っていたから臭いが移った、などという冤罪裁判のような言い訳は信じない。 というより、その‘気付き’に達した時点で十中八九結論は出ていた。 「母さん・・・悪いけど、先帰っててくんない?」 当然、驚く母親。雪はどんどん積もり、気温はますます低くなっていくというのに。 「あの子をまだ探すの?じゃあ私たちと一緒にいきましょうよ」 てっきり引き止められると思っていたのに、この提案は驚いた。しかしそうもいかない。 「え~と・・・その、つまり、ちょっとまだ気になってるとこがあってさ・・・」 「じゃあ車で行きましょ?ね?」 「坊ちゃん?」 参ったな。お世辞にも口が回るタイプではない。が、天啓というべきか丁度いいひらめきが降りてきた。 「学校の友達に聞いたんだけどさ、その、ストリップ・バーで比呂美に似た子がいたとかいないとか。 で、もしかしたらって思ったんだけどやっぱりあーいうとこは、女性がいくと不味いでしょ。 俺も心細いんだけど、彼(丁稚)とだったら大丈夫かなって。 あ、もちろん入らないよ、入れないし。ただ近くの喫茶店とかで張ってたらいるかもしれないでしょ? いや、いないと思うけどね。だから、万が一分の万が一だけど、イチオー行ってみようかと。 だから母さんはこないでね」 「・・・・・・」 眞一郎の長々しい話に呆気にとられた母だったが、比呂美を大事にしている眞一郎が 彼女の名誉を傷つけるような嘘はつかないと思ったのか、渋々といった感じで了承した。 役にたたない自転車は車で持って帰ってもらい、眞一郎と丁稚は夜道を歩く。 「でもまさか・・・いるわけないですよね?」 「・・・というか、あれは全部嘘」 「・・・?え、えぇー!?」 眞一郎を清廉潔白な正直者とも評していないが、あんな弁舌があるとは思わなかった丁稚が驚く。 「ははは・・・流石坊ちゃん。物語りの才がありますね」 「いやまぁ・・・うん。それはさておき」 「え。てことはホントに色町に行きたくて?・・・しょうがないっすねぇ。じゃあ今日はとっておきの・・・」 「あ、いや・・・じゃなくて」 とっておきの何なのか気になったが、もっと気になることを片付けておきたい。 「もし間違ってたら大変失礼なんだが・・・俺の勘違いだと思うし・・・非常に言いづらいんだが」 言葉をつっかえつっかえしながら、なんとか搾り出す。今ならまだ引き返せる・・・ そう、それに言ったところで俺はまたいらぬ混乱を作るだけ・・・ 「おれ奥さんと寝てるんです」 「え?」 眞一郎が喉まで出掛かった疑問を押さえ込んだとき、丁稚の少年が心を読んだように言葉を発した。 「・・・って、言ったら信じます?」 「あ・・・いや・・・その」 言葉に詰まる眞一郎。 二人の仲を疑ったのは何も体臭だけのことではない。その服のよれ具合、汗や髪の微かな乱れ、 仕事とは別の目線の呼吸、そういった仕草がどこか親密なそれを思わせたのだ。 なにも街中をゆくカップルの交際度判定ができるわけではない。 ただ、日常ごく親しい間柄の人たちにも、今まで自分が見ていたのとは別の側面があるのでは、と思い始めたのだ。 記憶を辿れば、丁稚と母はよく一緒にいる姿が浮かぶ。 それほど親しいとも思っていなかったが、逆にそんな素振りもないのに妙に連携がとれているというか。 子の贔屓目もあるが、同世代の親に比べて、眞一郎の母はとびぬけて美しい。 これは授業参観なり、出入りする業者たちの密やかな話からも確信しているし、内心自慢でさえあった。 が、この丁稚は我が家と近しい付き合いをしてるとはいえ、そんな美人妻に対してなんら青い性の欠片も見せないのだ。 淡白といえばそれまでだが。 ただその推理は半端としても、車内の2人の雰囲気が若干怪しかったのが決め手だ。 以前の自分ならそんなサインは、朴念仁のように見過ごしたろうが、 愛子の痴態を見たあとだと、致した直後の男女の気まずさのようなものが、読み取れるようになっていた。 その代償は大きかったが。 「信じるよ、というかそう思ったんだし」 眞一郎は平静にいった。内心、そう穏やかでもないのだが、どこか諦めてる節があったのもある。 ああ、またオレの知らないとこであった話か、という諦めが。 「驚きました」 「ん?何が」 「普通は殴ったり、怒鳴ったり、怒ったり、誤魔化したりするかと思って。・・・お父さんに似てるんですね、やっぱり」 父に似ている。そういわれるのは少し嬉しい。 顔は母に似てるとたまにいわれるが、からかわれているようで不遜だったからか。 「実はちょっとカルチャーショックがあって。しかもそれで失敗したせいかな。どうすればいいのか分からないんだ」 眞一郎の困ったような物言いに丁稚も少し戸惑う。何か計算があって告白したわけではない。 ただ、疑われた以上、下手に勘繰られるよりは自分が罪を引っ被るほうに仕向けられれば、と思っただけなのに。 「オレが知らなかっただけなら、知ったところで、 それは今までとなにも変わってないってことだもんな」 「坊ちゃん・・・」 「母さんが浮気してるなんてかーなーり、ショックさ・・・でも、だからって」 みんな大切なひとたちだ。比呂美や乃絵、愛ちゃんや三代吉もそうだったのに。 でもあのバスケットマンは例外だな。オレから何もかも奪いやがってからに。 まぁでも、それがあいつの欲してるもので、得ようと努力してるなら譲ってもいい。比呂美も乃絵も。 「そんなことで俺はいちいち変わりたくない」 「あ、あの坊ちゃん、なんかヤケになってません・・・?」 青臭かった眞一郎があまりにクールになってしまったので気味悪くなる丁稚。 「オレには他人の恋路にわけいって止めたり指南したり、なんてとんと縁がないし、素質も無い そんなやつが端から勝手気ままに何かいってどうなる。黙るのだって言葉のうちだ」 「坊ちゃんは何もできないひとじゃないっす」 「もちろん。でも、オレにはせいぜいこの穏やかな生活を守れるよう精進するのが限界で、 それにおれ自身、あくせく縛られて愚痴たれるのが割と好きなんだろう」 「愚痴るのがいいんすか?」 「いいんだ。いっちゃなんだが、母さんや比呂美は、きっと面倒ごとを愛してるんだろう、 そうと知らずゆえにか。 オレにとっては面倒は面倒でしかない。うまく収めるなんてできない。やっても掻きまわすだけだ」 「はは・・・まぁちょっとそうかも・・・」 「オレはオレの考える分かりやすい日常を見て、過ごして、守って、それが全部だ」 そこまでいって、父さんは丁稚と母さんがデキてるのを知ってるのだと気付いた。 丁稚と母さんはうまく隠したつもりだろうけど、全部知ってて黙ってる。 責めるような目つきも態度もせず、家族と部下を真摯に愛して、落ち着いた生活を守り続ける。 それが自分にあった生き方なんだ、というその考えはパズルの最後のピースがハマるようにしっくりときた。 そのとき、目を焼くような閃光と、地を揺るがす轟音が2人に向かってきた。 母さんが戻ってきたのかと思ったが、それは運送用の大型トラックだった。 キイィィィィィーーーーッッ! 「眞一郎!」 「乃絵・・・?」 トラックが道路の真ん中で止まると、ドアからなんと石動乃絵が出てきた。それも運転席側からだ。 厚手のコートと、右腕になにかおもちゃのような機械をつけているが変人だから気にしない。 「おまえ大型免許なんて持ってたのか?」 「そんなのいいから、早く乗って!湯浅比呂美の危機よ!」 女子高生が、雪道の無免許運転、恐れ知らずと責めるべきか、大した才能と褒めるべきか。 しかし、その顔には一点の悪ふざけのなく、真剣の一色だ。 「坊ちゃん?奥さん呼びますか?というか呼びましょう」 「だめよ!下手に動いたら殺されるわよ!」 「へ?な、なんすか?」 女子高生が‘殺される’なんていっても漫画も真似にしか見えない。だが眞一郎はそれを信じた。 「いったい何があったんだ乃絵?比呂美を知ってるのか?」 「いーかーらっ!早く乗っててばぁ!もう手遅れかも知れないのに! お兄ちゃんがあの女を殺すかもしれないんだってばぁ!」 「な、なんかヤバイ事件ですかね?警察行きましょう?」 丁稚の提案には応えず、眞一郎はトラックの助手席に向かう。 「母さんにはストリップ見てたって、伝えてくれ!」 「ちょっと?ストリップ見に行く気だったの?」 乃絵が頬を膨らませて食いかかる。 「あー、そういえばいいとこあるって言ってたなぁ・・・。すまん、説明だけしてくれないか?」 丁稚の台詞を思い出して、逡巡する眞一郎。露骨に嫌悪の顔色をする乃絵。 「みないとどうせ信じないわ」 「おまえがいうかね、そんな人並みな解説を。いいから話せよ、全部信じるから」 どこか落ち着いた眞一郎に妙な違和感を覚える乃絵だが、 いわねば動かないようなのでここは折れる。 「どこから言ったらいいのか・・・」 信じるというからには、嘘八百並べようかとも思ったが、一分一秒も惜しいのでなくなく真面目に徹す 「プレデターっていう宇宙人、こいつらは狩りをすることが大好きなモンスターなんだけどね。 そいつが今、ユタニっていう会社、ほらたまに聞くあの有名なやつの。 そのプレデターとユタニの秘密軍隊が今、あっちの山の向うで戦争やってんのよ。 あ、プレデターは一人なんだけど。 で、仲間のプレデターが武器を奪われたくないから、助けにきたんだけど、 掟がどーやらかーやかいって、いきなり家に押しかけてきて。 お兄ちゃんに確かシンビオート?黒くて気持ち悪いネバネバの宇宙生物を合体させて、 それはプレデターじゃないんだけど。 お兄ちゃんはハイになって、仮面ライダーの真似するし。 あ、そうしないと私のコレ(といって腕のガントレットをかざす)、 が爆発するの。無理にとっても腕を切り落としても爆発するんだって。分かった?」 矢継ぎ早に捲くし立てる乃絵。傍で聞き耳を立てていた丁稚は呆れていたが、 眞一郎は内容をじっくり租借する。 「それで、比呂美はいつ出てくるんだ?」 思い出したようにハッとする乃絵。 「そう!プロフェッサー?お兄ちゃんを改造したプレデターなんだけど、そいつが見せてくれた映像に湯浅比呂美が映ってたの」 その言葉には強く反応する眞一郎。 「そこに偶然居合わせて、巻き込まれたってことか?」 「えっと、切れ切れでよくは分からないけど最初はそんな感じだった。 でも、プロフェッサーがいうには、なんかすごく仲良いんじゃないかって。 プレデターって種族は平気で人殺すくせして、友情とかを感じると凄く大事にするそうで、今一緒に闘ってるらしいの」 「比呂美VSプレデターってことか?」 「じゃなくて、比呂美&プレデターみたいな。いや、一緒には闘ってないんだけど、一緒にいるのよ今」 「じゃあアニキにそう言えばいいだろ。倒すのは比呂美じゃないんだし」 その言葉には頷きつつ、悩む乃絵。 「そうなんだけど・・・お兄ちゃんもプレデターになっちゃうかもしれないの」 暗闇を覗くものは注意しなければならない。何故ならば、暗闇もまたこちらを覗いているのだから、だっけか。 「湯浅比呂美がプレデターの仲間になったら、2人とも殺しちゃうよ、きっと」 なんか既に比呂美は、平気で人殺して喜ぶ怪物の仲間として話が進んでる気がするが・・・。 「分かった?信じる?信じなくていいから早く乗って」 「信じるよ」 眞一郎の言葉に目を丸くする乃絵と丁稚。その言葉は冗談めいた雰囲気は一切無く、清らかに真っ直ぐだった。 「じゃあ・・・!」 「だが断る」 「え」 一瞬、ノリ突っ込みかネタかと思ったが、車体から離れる眞一郎に乃絵は慌てる。 「ちょ、ちょっと!だから信じなくていいからっ」 「信じる。だから行かないんだ」 どういうことだ。湯浅比呂美の危機とあらば、色々厄介ごとを起こす彼が、なんか迷いもなく断ってきてるんだが。 「分からないの!?どうなってもいいの!?命の危機なの!」 必死に訴えるが、どこまでも眞一郎の顔は冷静そのものだ。 「分かるし、そりゃどうにかせにゃ、な事態だが俺には何もできない」 「え?ちょ、ちょっと坊ちゃん?行ったほうがいいですよ!」 乃絵の話は信じないが、緊迫した雰囲気に偽りはない。いま、ついていくべきだとは丁稚も思う。 「いや、俺がいってもまた困らせるだけだよ」 「んな弱気なっ・・・!」 「弱気じゃない。分かるんだ。俺に比呂美は救えない、まして4番など論外」 乃絵がようやく理解したように、重く哀しく彼を見つめる。 「眞一郎。いま行かないと、見つからないよ・・・?」 「もう見つかったよ。比呂美は御淑やかで人気者で綺麗な幼馴染み。だから俺は家で待ってる」 「そんな女いないじゃない・・・そんな女じゃないって知ってるでしょ!!」 乃絵の激昂も眞一郎は受け流す。それは馬鹿にするでも揶揄するでもなく、ただ淡々と自分の考えを述べているだけだ。 「俺には比呂美を助けられないんだ。 でも帰ってきたら、血で汚れたアイツと今までと変わらずに過ごしたいと思ってる」 「いま、必要なのは待つことじゃない!動くことよ!」 「俺は待つしかできない。動いても大事なものを置き去りにして、取りに行ったものだってあとで捨てちまう」 「違う・・・そんなの、眞一郎じゃない・・・雷轟丸じゃないよ・・・」 乃絵の目じりに熱いものがこみ上げる。そんな気がしたが、そこからは何も流れなかった。 悔しい。とても悔しかった。 裏切られたのでも、見捨てられたのでもない。 眞一郎は籠の中を選んだのだ。翼はいらない、と決めたのだ。 湯浅比呂美が好きだ、といってくれたほうがずっとずっとマシだった。 そんな風に思うときが来るなんで思わなかった。 飛ぶことを諦めたのでも、逃げたのでもない。そもそも飛ぶことに興味がないのだ、眞一郎は。 (バッチコイ!) あのとき、地べたで自分を受け止めてくれた瞳はもう見えない。また、孤独になってしまった。 「分かってくれたか、乃絵?」 乃絵は応えず、助手席のドアを閉じると、ハンドルを回し、強引に元きたコースに戻っていく。 「いいんすか?」 あれほど大きかったトラックが、今は吹雪に包まれ、視界の遠く向うに消えていった。 「よくもないんだが・・・これが最善だよ」 哀しげに眞一郎が呟くと、つま先の方向を変える。 「で、さっきのとっておきだけどさ・・・」 「こんなとこで宇宙人を引っ掛けてるとは思わなかったぜ、流石富山の好色小町」 ヴェノム=石動純が地面に半分のめり込んだアームスーツの上から、舌を伸ばして比呂美に問いかける。 「そんなコスプレしてるひとよりはマシだと思うけど」 と強がったものの、内心はとびつきたい程嬉しかった。 疑問はつきないが、この状況で知った人間が助けに来てくれるとほど嬉しいこともない。 4番は伊達ではないということか。 「ははっ!なかなかイカした恰好だろ、ってうぉわっ!?」 足元の強化兵器がジャンプするように立ち上がると、純の片足を掴んで真上に放り投げた。 花火のように垂直に上昇して、その影はたちまち小さな黒点になる。 「砕けて燃えちまいなぁ!」 続けてアームスーツが背から煙を上げて空き缶サイズの弾頭を3発打ち出すと、 それが美しい放物線を描いて、鳥のように純目がけて飛んでくる。 一発でも喰らえば大気の塵となって富山の空と同化してしまうだろう。 「純君っ!」 比呂美が咄嗟に名前を叫ぶ。 「やぁばいっ!!」 空中で体を絞るように撓って最初の一発を紙一重でかわし、同時に両手首から黒い糸を放出した。 それで2発目と3発目を縛り上げてぶつけ、一編に爆発させると、ターンして背後の天空から一発目が戻ってきた。 超感覚─スパイダーセンス─で察知し、振り返って弾丸のように固めた糸を高速発射してそれも爆発させる。 「近すぎっ!!」 しかし爆風の衝撃で叩かれて、純の体は紙のように吹き飛ばされ、地面に埃を巻き上げて落下した。 「うわぃ!?」 慌てて踵を返した比呂美の鼻先に、後方にいたはずのアームスーツが降り立って視界を埋めた。 「ただの子どもにしか見えないが・・・あの化け物たちを惹きつける何かがあるのか?」 彼女の胴体をまるまる掴めそうな手の平が迫る。 「あ・・・ああぁ・・・う」 そのパワーとスピードを目の当たりにした比呂美は無抵抗しか最善の選択が浮かばない。 「ヴェノム・ウェブスロー!!」 そのとき、つんざくようなバイクのエンジン音が走ってきた。 体中に鉄や石の破片が突き刺さったままの黒い筋肉、赤い口の怪物純ヴェノムだ。 寄生体の一部を分離させて槍の形にし、それをアームスーツに撃ちながら向かってくる。 「効かん!!」 蚊が当たる程度にしか感じない鎧は、さらりと槍を受け、二の腕からグレネード弾を発射してくる。 「おれ様も効かん(当たらなければ)!」 純ヴェノムは雨粒を避けるような繊細なハンドル捌きでそれを潜り抜けると、 外れた弾頭が起こす爆炎を背に、天空に向かって高い稜線を描いてジャンプした。 「ヴェノム・トルネェエドッ!」 「ジャンプするだけか?」 上空の純に注意を惹かれる強化外骨格。 しかし、彼の腕から伸びた蜘蛛糸はバイクの車体に結ばれていて、振り子のようにその鉄の塊がアームスーツへ叩き込まれた。 「フン」 しかしアームスーツの腕がドリルのように回転すると、竜巻さながらのパンチをそれに打ち込む。 クレーンのように飛んできたバイクは中央から真っ二つに割れ、糸伝いに衝撃を受けたヴェノムはまた吹き飛ばされた。 それでも大地にペシャリと叩きつけられる寸前、猫のように身を返してからくも着地する。 「他愛ないわ」 ドウッドウゥッ! そのとき、遥か離れた鉄塔の真ん中辺りから、ぶら下がったプレデターがプラズマキャノンを撃ち込んだ。 アームスーツのセンサーは一瞬で干渉波クローを展開して、電磁バリアーで光線を綺麗さっぱり消滅させてしまう。 「まだまだぁっ!」 ビームに注意が及んだその短い隙に、大地を滑るように駆けてきたヴェノムがマシンの太い足にスライディングをかまして、 巨大なボディを大地になぎ倒すことには成功した。 そのとき、プレデターやヴェノムさえ予期しないほうから攻撃が追加された。 「おおおあああぁぁぁっっっ!!」 その隙に比呂美が純の放った寄生体を固めた槍を拾って、背の低くなったマシンに駆け寄る。 無論、彼女の腕力では、その強靭な槍を以ってしても、頑強な装甲を貫けるわけがない。 が、そこから生えた電磁フィールドを作り出す幾本ものアンテナのひとつ。その根元に、ズブリと黒い槍を突き刺す。 ドグォオンッ!! 「づぁああ!!?」 プレデターのプラズマ砲を防いでいたシールドのバランスが崩れ、 コントロールを失った熱エネルギーが暴れて、丸太のように太いアームスーツの右腕を根元から千切れ飛ばした。 本体から切り離され、大地に投げ出された腕は、ミミズのようにのたうち回り、獲物を求めてあさっての方向を引っ掻く。 「ひぅっ!!?」 しかし、その瞬間比呂美はパイロットの放つ、視線だけで殺せるような凍る憎しみを装甲ごしに受けた。 「おっと・・・って!」 触れただけでミキサーのように獲物を分解する腕をヴェノムがよけてる隙に、 胴体部分から蟻の足のように生えた2本の腕、パイロット自身の腕が比呂美の顔を掴んだ。 「ふぐっ!」 錠を噛まされたようにがっちりと締めてくる腕を外そうと、もがく比呂美。 プレデターも下手にキャノン砲を撃てば彼女に当たるため、照準を定めようとして撃ちあぐねる。 「もらっていくぞ、この女」 ロケットパックがオレンジ色の炎を輝かせ、空気を震わす排気音を通して、 アームスーツの巨体がふわりと宙に舞い上がる。 「ふ、ふぐぅーーっっ!!」 ヴェノムもプレデターも空は飛べない。逃げの一手をかまされたら防ぐ手は無い。 「石動ヴェノム・ファングゥ!!」 が、背後から跳びあがった黒く巨大な牙を揃えた口が鰐のようにガブリと喰いついて、強化外骨格を逃さない。 「石動ウェブ・クラッシュ!!」 そしてヴェノムの全身を覆う寄生体を限界まで膨張させ、 自らを巨大な網に変形させてアームスーツの全身をグルグルに包み込み、空中で拘束してしまう。 バリバリバリバリバリィッ!! アームスーツが装甲表面から高圧電流を放出して、ヴェノムを引き剥がそうとする。 「うえええっ、ぐぉおおっがが・・・!」 電気には耐性のあるシンビオートだが、あまりの熱にびっくりして、元の人型に戻ってしまうヴェノム。 それでも、その間に比呂美をパイロットの腕から引き剥がして、感電し炭の塊になるのを防ぐのは間に合った。 「きゃぁあっっ!」 落ちればぺしゃんこになってしまうという、高度に対する原始的恐怖で悲鳴を上げた比呂美だが、 美青年の面影がない純の首にしがみつくだけの冷静さはあった。 が、アームスーツは蜘蛛のように張り付く純から、比呂美を狙って手を伸ばしてくる。 「これはてめぇの女じゃねぇぇええっっっ!!」 ヴェノムがマシンの顔面に膝蹴りを刺すと、 右手首から蜘蛛糸を発射してアームスーツの胴体を縛りあげる。 さらに遠く鉄塔にいるプレデターに向かって自身と繋ぐように左手首からも蜘蛛糸を発射すると、 その怪物が横たわっている鉄柱へ幾重にも巻きつけた。 プレデターと純の視線だけが交わされ、生涯を寄り添った夫婦のように思考が通じ合う。 「死んでも振り落とされるなよ比呂美・・・・・・きばれマザーファッカアアッ!」 「カシャァアオォオエエエエエッッ!!」 プレデターの豪腕が柱に巻かれた蜘蛛糸をグイと掴むと、それを渾身の力で引っ張った。 プレデターの怪力がブラックホールのように鉄塔へアームスーツを吸い寄せられる。 純も糸が切れないよう、全身の筋肉の隅々まで力を漲らせて、寄生体と一体化する。 「俺の妹は富山一スウィイングウウウウウウッッ!!」 プレデターとヴェノムのパワーが合わさって、蜘蛛糸はバネのように撓んで収縮する。 「ううううううううううううううっっ!!!???」 比呂美は自分が回りすぎてバターになってしまうのではないかと考えた。 まるで洗濯機の中にいるような、この勢いなら自分の残像が見れるのではないかとさえ思った。 ジェットコースターのような振り回される遠心力で、純の首から引き剥がされてしまいそうだったが、 ヴェノムの首周辺の寄生体がガムのように彼女の腕をくっつけていたので助かっていた。 アームスーツは高い高い鉄塔の中間までその周辺をグルグルと回転しながら引き寄せられていく。 「キシャァアッッツ!!」 どちらからともなく合図の発した奇声。 蟻地獄のように鉄塔に向かっていくアームスーツがぶつかる直前に、 純の黒いボディがその身を離れて、宙に飛んだ。比呂美もその腕に抱えて。 「待たせたな・・・っておまえか」 一瞬、体にしがみついて腕に抱く感触から、妹を思い出した純だが、比呂美の顔を見て心底うんざりする。 一方、不覚にも声がよく聞こえない比呂美は、ヴェノムの裂けた赤い口と、牙のような白い目に、 その真っ黒い筋肉にお姫様だっこされて少し胸が高鳴ってしまった。 ゴガァラガアアンンッッ!! 耐震強度の保障された鉄骨が曲がるほどの衝撃で、アームスーツのボディが叩きつけられ、 鉄塔が貧乏ゆすりのようにブルブルビリビリと震動する。 この連携攻撃には強化外骨格も相当なダメージを受けて、動きが固まる。 つづく truetearsVSプレデター7
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「true tears」Blu-ray BOX http //www.truetears.jp/bd/ ●映像特典 ┣TV未放送の新作エピローグ映像(約3分)を含む第13話特別版 ┣第13話特別版 オーディオコメンタリー ┣true tears舞台紹介映像(約20分) ┣デジタルイラストギャラリー(true tearsの版権イラストを網羅) ┣「雷轟丸とじべたの物語」ピクチャードラマ ┣第1話~第10話ダイジェスト ┗true tears PV Ver.2.0 舞台は日本海側北陸・富山県。絵本作家志望の高校生・仲上眞一郎は、 過去のトラウマによって涙を流せなく成った少女・石動乃絵と出会う…。 ○TV放映日程・NET動画配信 2008年1月5日(土)から放送開始 tvkテレビ神奈川 . 毎週土曜日 25:00~25:30 KTV関西テレビ 毎週火曜日 26:45~27:15 (02/12 26:45→26:50 02/26 26:45→27:00) CTC千葉テレビ . 毎週水曜日 25:30~26:00 TVSテレビ埼玉 毎週木曜日 26:00~26:30 THK東海テレビ 毎週木曜日 27:35~28:05 BS11日本BS放送 毎週金曜日 23:30~24:00 キッズステーション . 毎週金曜日 24:00~24:30 バンダイチャンネル:ttp //www.b-ch.com/cgi-bin/contents/ttl/det.cgi?ttl_c=1179 BIGLOBEストリーム:ttp //broadband.biglobe.ne.jp/program/index_bch.html ○関連頁 TVアニメ公式:ttp //www.truetears.jp/ Wikipedia:ttp //ja.wikipedia.org/wiki/True_tears_%28%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%83%A1%29 ※本作品は、登場人物・設定・展開・全てオリジナルですので、ゲームとは異なります。 PS2ゲーム公式:ttp //lacryma.info/tt_ps2/ Windowsゲーム(原作)公式:ttp //www.lacryma.info/truetears/ ○投票関係 やきゅうけん:ttp //www.e-ohkoku.sakura.ne.jp/votec/votec.cgi
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true tears SS第二十五弾 過去と、現在と、将来と 1 恋人握り 比呂美はまだ眞一郎に訊けないことがある。 手を繋いだままのふたりは仲上家の敷居の前で立ち止まる。 箒を持った理恵子がいて居間に来るように提案される。 眞一郎父は博、眞一郎母は理恵子、比呂美父は貫太郎、比呂美母は千草。 前作の続きです。 true tears SS第二十二弾 雪が降らなくなる前に 前編 http //www39.atwiki.jp/true_tears/pages/287.html true tears SS第二十三弾 雪が降らなくなる前に 中編 http //www39.atwiki.jp/true_tears/pages/306.html true tears SS第二十四弾 雪が降らなくなる前に 後編 http //www39.atwiki.jp/true_tears/pages/315.html true tears SS第十一弾 ふたりの竹林の先には http //www39.atwiki.jp/true_tears/pages/96.html true tears SS第二十弾 コーヒーに想いを込めて http //www39.atwiki.jp/true_tears/pages/245.html true tears SS第二十一弾 ブリダ・イコンとシ・チュー http //www39.atwiki.jp/true_tears/pages/275.html 雪がまだ降ってくれている。淡くてきれいで儚げで。 はしゃいでいればお父さんとお母さんが喜んでくれていた日々を思い出させる。 おばさんに眞一郎くんがお兄さんと言われて雪を嫌いになっても、 眞一郎くんがさらに好きになるようにしてくれる。 今も手を繋いでくれて仲上家に向う。 眞一郎くんはさりげなく私を壁側を歩かせている。 「繋ぎ方を変えよう」 眞一郎くんは右手を放してから、私の左手の指に絡めてくる。 急に割り込まれてしまって手元を見てしまう。 がっしりと固く結ばれていて解けそうにない。 「恋人握り」 囁いてみると現実感が湧いてくる。 「そういう名前が付いているとは知らなかった。夫婦握りってある?」 眞一郎くんは呟いてから私にそっと訊いてきた。 「知らない。おばさんに結婚のことまで話すの?」 「そうするつもり。こちらから本心を打ち明けておけば、向こうも反応してくれると思う。 今まで誰もが話し合おうとしてこなかったので、こちらから攻めてみようかと」 淡々としていながら静かな強さを秘めた口調だった。 「話していれば良かったこともあるわね」 話せないこともあるのを自覚している。 石動さんとどういう付き合い方をしていたのかとだ。 奉納祭りの後に私を置いておきながら、今では私と付き合ってくれている。 どういう心境の変化があったのだろう。 薄氷の上にいるかのごとく不安定で寄り添っているだけの関係かもしれない。 だから結婚という確実なものを願い、竹林での告白をプローポーズにしてしまった。 本当はたった一言があればいいのに、それ以上のものを提供された。 「昨日の今頃は待たせていたのに、一日で変わってしまった」 「ずっとどうなるか考えていたわ。気分転換にいろいろしていた」 料理やストレッチ、掃除や読書までと新たに手を伸ばしてもすぐにやめた。 落ち込んだり期待したりと困惑していても、あらゆる結果を受け入れようとした。 「ただ乃絵に絵本を見せるだけでなく乃絵のことも考えてあげたかった。 だから時間をかけてみたんだ。 それとあの絵本はカラーコピーしてあるので、比呂美が見たかったらいつでも見せてあげる」 眞一郎くんは疑われないように私の様子を窺う。私は右手を顎の下に運ぶ。 「今度にするわ」 しばらく間を置いてからにした。 即答で拒否をしたくてもできずにいた。 竹林であの絵本を見たいと言ったのは、強がりな対抗心だった。 絵本だから読者にさまざまな感想を引き起こす。 今の私なら石動さんとの仲が終わっていないような都合の悪い解釈をしてしまうだろう。 たとえ眞一郎くんが後ろめたくない内容に描いていてもだ。 「深呼吸しよう」 仲上家の門の付近で立ち止まる。 手を繋いだままで両腕を広げる。 冬の冷たい空気を肺に入れてから吐くと、息は真っ白だ。 眞一郎くんと見つめ合ってから、小さく頷き合う。 眞一郎くんが先に外回りで門の前に姿を見せると、私も後から同じようにする。 箒を両手で握り締めて掃いているおばさんがいた。 まだ敷居をまたげていない私たちの気配を感じたようだ。 私たちの姿を捉えてから繋がれている手に視線を落とした。 「おかえりなさい」 最近してくれている優美な会釈だった。 「ただいま……」 「ただいま」 言い淀んだ眞一郎くんに対して、私は最後まで言い切った。 「そんなところにいないで居間でお茶にしましょう」 くすりと微笑んでから提案してくれた。 「手伝います」 おばさんのそばに行ってから伝えようとしたくても、眞一郎くんの手を払えない。 「こういうときは、比呂美が連れて来た男の人のそばにいてあげるものよ。 ちょっと用事を済ませるわね」 おばさんは一方的に会話を終えて箒を持ったまま去っている。 雪はまだ降っているし、掃くほどに落ち葉があるわけでもない。 「俺はお袋の息子なのに」 寂しげに洩らしていた。 「おばさんは私の立場でおしゃってくれたのかも。 いつか私が男の人を連れて来るようになるって」 わざと復唱して眞一郎くんを責めてみた。 「こういうことは女のほうが意識するものだろうな。 昔と重ねてもらえているのを実感できたが、親父のときはどうしたのだろう」 眞一郎くんから足を動かしてくれて、私も合わせてみる。 このまま敷居をまたいで玄関まで行けた。 (続く) あとがき 今回から比呂美視点に戻ります。 情緒が豊かになり独自設定の情報量が増えるでしょう。 前回までは楽観的な眞一郎だったのですが、比呂美は現実的です。 理恵子はあの管理人さんのごとく箒を握っていました。 あの人は掃除しか仕事がないほどに掃いてばかりです。 同じ行動をしていた理恵子が用事を済ませてから、ふたりと向き合います。 理恵子が家事をしている場面を見たかった。 次回は、『過去と、現在と、将来と 2 白い結婚』。 居間で待たされている気がするふたり。 ようやくお盆にお茶を運んで来る理恵子。 真っ先に比呂美との結婚の決意を明かす眞一郎。
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true tears SS第十五弾 眞一郎の比呂美の部屋深夜訪問 流れに乗って、日付が変わる前に投下しました。 まだプロットの段階でしたが、少し書いてみました。 第十二話に入らないかもしれない場面です。 私は眠れぬ夜を迎えている。 とうとう膝を抱えて顎を乗せている。 それでも寂しさは紛れてくれない。 眞一郎くんと石動乃絵のことが気になってしまう。 部屋に入れて合鍵を渡してキスをしているのに、一種間も待っているのに、 ちゃんとしている気配がない。 ふたりが会っているという話すらも聞かない。 「何をしているの?」 眞一郎くんに訊くことができずにいる。 おばさんに言われて、眞一郎くんの部屋に着替えを運んだ。 机の上には『雷轟丸と地べたの物語』という題の絵本があった。 あれはきっと石動乃絵のための絵本。 私には一枚の絵だけ。 涙を拭いたいという台詞と髪の長い女性の姿から、私かもと思っているだけかもしれない。 石動乃絵の家出で電話したときにも、絵本を描いていたらしい。 『雷轟丸と地べたの物語』のことを訊こうとしたけれど、かすれてしまった。 「羨ましいな……」 石動乃絵と私との格差を感じる。 私は幼い頃の思い出から十年以上なのに、石動乃絵は四ヶ月くらいだと思う。 三十倍もの年月があっても、絵本にされる量は影響されない。 私と眞一郎くんには夏祭りと進展しなかった仲上家での生活しかなかった。 携帯の画面にいる眞一郎くんの顔を見る。 今から掛けてみようかと悩む。 もう、何度もしてきた行為。 ふたりの邪魔でもしてみようかと考えてしまう。 最近は眞一郎くんと親しくなれた反動で嫉妬深くなっている。 着信音が鳴ると、画面には眞一郎くんと表示される。 『比呂美、寝てたか?』 穏やかな気配りのある声。 『まだ寝ていないわ』 『話があるから、部屋に入っていいか?』 眞一郎くんには合鍵を渡している。 『入れるものならね』 私から電話を切る。 私はゆっくりとロフトの階段を降りて電気を点ける。 部屋を見回して危ないものを隠す。 特に干したままの下着を仕舞い込む。 ドアを開ける音がするが、眞一郎くんは何も言わない。 私はドアの前に行って隙間から、眞一郎くんの顔を覗く。 罠に掛かった小動物のように震えている。 「チェーンロックかよ」 「一人暮らしは物騒だって眞一郎くんも言っていたし」 私はにこやかに応じた。 「深夜だからな。明日は祭だから長居はできないが、開けて欲しい」 畏まった態度で迫ってくる。 「ちょっと待ってね」 私はドアを閉めてから、チェーンロックをはずして開けてあげる。 「ありがとう」 眞一郎くんを部屋の中に導いてあげる。 「何か温かい飲み物でもいる?」 「いらない」 ふたりはテーブルを囲んで座る。 眞一郎くんはコートも脱がずに眞一郎くんはいる。 眞一郎くんは、あの『雷轟丸と地べたの物語』を上に乗せる。 私は一瞬だけ忌々しげに見つめてしまった。 「部屋に入ったときに見られたかもしれないな」 ばつが悪そうに問うた。 「気づいていたわ、中は見ていないけど」 眞一郎くんの足音がしたので、我に返ってしまった。 もう少し時間があればどうしていたかはわからない。 「乃絵と別れたから」 単刀直入に言われて、私は眞一郎くんを見つめる。 偽りがない眼差しで訴えてくる。 「本当に?」 空耳のような気がして。 「経緯を話せば長くなるから、落ち着いてからでも。 その前にこの絵本の読んで欲しい」 眞一郎くんに両手で渡されてから、受け取る。 スケッチブックを開くと、躍動感のある雷轟丸と地べたがいる。 本当に細かく背景までも描かれていて、心を奪われてしまう。 ラストシーンは地べたが墜落してしまうというBADEND。 何て感想を伝えればいいか迷ってしまう。 鶏だから飛ぶのは難しいのか? 絵本であっても現実を受け入れなければならないか? 石動乃絵はどういう印象を抱いたのだろう。 ふと私は眞一郎くんを見ると、テーブルに伏せて眠っている。 しばらく様子を眺めていたけれど、起きる気配がまったくしない。 せめて私はニット帽とマフラーとコートを外してあげる。 明日は祭だから休息をさせてあげたい。 来客用の布団を出して敷く。 眞一郎くんの身体を動かしてみても、なかなかうまくいかない。 やはり男の人の身体は扱いにくいし、眞一郎くんを起こさないであげたい。 まったく目が覚めないほどに疲れているのだろう。 私に説明するまで気を休めようとせずに。 何とか布団の中に眞一郎くんを入れることができた。 仰向けの眞一郎くんの右頬を強く突いてみる。 眞一郎くんの初めてのお泊りが、こういう形になるなんて思ってもみなかった。 私は安らかな寝顔を見ながら、おばさんたちへの言い訳を考える。 あとがき プロットを考えながら、比呂美スレを眺めていました。 漠然としたイメージのままですが、眞一郎のお泊りです。 さすがに本編に入りそうにないですが、一場面として描いてみました。 十二話の展開を考えるのは時間がかかりそうなので、 比呂美と眞一郎以外の場面は省略するかもしれまん。 ご精読ありがとうございました。 前作 true tears SS第一弾 踊り場の若人衆 ttp //www.katsakuri.sakura.ne.jp/src/up30957.txt.html true tears SS第二弾 乃絵、襲来 「やっちゃった……」 ttp //www7.axfc.net/uploader/93/so/File_4171.txt.html true tears SS第三弾 純の真心の想像力 比呂美逃避行前編 「あんた、愛されているぜ、かなり」 ttp //www7.axfc.net/uploader/93/so/File_4286.txt.html true tears SS第四弾 眞一郎母の戸惑い 比呂美逃避行後編 「私なら十日あれば充分」 ttp //www7.axfc.net/uploader/93/so/File_4308.txt.html true tears SS第五弾 眞一郎父の愛娘 比呂美逃避行番外編 「それ、俺だけがやらねばならないのか?」 ttp //www7.axfc.net/uploader/93/so/File_4336.txt.html true tears SS第六弾 比呂美の眞一郎部屋訪問 「私がそうしたいだけだから」 ttp //www7.axfc.net/uploader/93/so/File_4366.txt.html true tears SS第七弾 比呂美の停学 前編 仲上家 「俺も決めたから」 ttp //www7.axfc.net/uploader/93/so/File_4403.txt.html true tears SS第八弾 比呂美の停学 中編 眞一郎帰宅 「それ以上は言わないで」 ttp //www7.axfc.net/uploader/93/so/File_4428.txt.html true tears SS第十弾 比呂美の停学 後後編 眞一郎とのすれ違い 「全部ちゃんとするから」 ttp //www7.axfc.net/uploader/93/so/File_4464.txt.html true tears SS第十一弾 ふたりの竹林の先には 「やっと見つけてくれたね」 ttp //www7.axfc.net/uploader/93/so/File_4523.txt.html true tears SS第十二弾 明るい場所に 「まずはメガネの話をしよう」 ttp //www7.axfc.net/uploader/93/so/File_4585.txt.html true tears SS第十三弾 第十一話の妄想 前編 ttp //www7.axfc.net/uploader/93/so/File_4598.txt.html 「会わないか?」「あなたが好きなのは私じゃない」 「絶対、わざとよ、ひどいよ」 true tears SS第十四弾 第十一話の妄想 後編 「やっぱり私、お前の気持ちがわからないわ」 「うちに来ない?」(予想) ttp //www7.axfc.net/uploader/93/so/File_4624.txt.html
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前truetearsVSプレデター3 眞一郎の手が愛子の肩にかかった。 「いっつ!ちょっと・・・」 「五月蝿いっ!!」 そのまま客席のテーブルに強引に押し倒す。 「やっ、だ・・・、離して!」 愛子の手が眞一郎の顔を引っ掻き、がむしゃらに抵抗する。 「誰でもいいんだろっっ!」 許せなかった。思い出を汚され、比呂美まで汚された気がして、本気で憎らしかった。 襟に手をかけると力任せに左右に引き裂く。 その勢いで彼女の乳房が跳ね上がり、薄桃色の乳頭が飛び出した。 ゴクリッ・・・ さっきまで盛んに行われていた乱交のイメージが重なり、股間が沸騰する。 「きゃぁあっ!だめぇ!」 気が付けば夢中で、おっぱいに喰いつきベロンベロンと舐めしゃぶる。 「誰かぁ!助け、・・・んっ!」 五月蝿い口を掌で掴む。愛子の歯が噛み付き、皮を裂き、血が垂れる。 乱暴に体を引き倒すと、机にある調味料や割り箸がこぼれて周囲に散乱した。 足で必死に蹴ってくるので、ジーンズを膝まで引き降ろして下半身を拘束する。 「やだぁああ!誰かぁああ!!」 泣き叫ぶのを無視して、上半身を机にうつ伏せにすると、右腕をねじり上げて動きを封じる。 「別にいいだろう?俺のこと好きだったんだから!」 そうだ。愛子のことを何にも知らないような男たちと淫らに交わる癖に、どうしてオレじゃダメなんだ! 「んんんっんんっうーーー!!」 彼女が被っていたバンダナを口に突っ込んで塞ぐ。 丸い尻に薄く張り付いたショーツを引き降ろすと、自分もベルトに手をかけた。 焦りながらトランクスを下ろすとガチガチに勃起した逸物を引き出す。 「んうっーーー!!!」 頭の片隅で‘今すぐやめるべきだ’と、大切な何かが叫んでいるが、 ここまで来てしまった勢いと、脳を焼きつかんばかりの性欲で前後の見境もつかない。 「・・・あ、あれ?くっ、くっそ・・・」 なかなか入り口にうまく入らない。眞一郎は先走りでドッロドッロなのに対し、 愛子は少しも濡れていないのだから当然だ。 経験の無さを馬鹿にされたような、雄としての自分を否定されたような屈辱で、乱暴に陰部を擦り続ける。 「くっそぉお!くっそぉおお!」 それを繰り返すと、愛子の肉体が防衛反応で膣口に愛液を垂らしはじめた。 「!・・・やっぱり淫乱だったな・・・」 これは無理やりな性交で、性器を傷つけないための、生理的な処理であって、性的興奮とは一切無縁だが、 我侭な彼に察する余裕などない。 「いっくぞお」 ゴガァアンッ! 入り口に先端が触れた瞬間、眞一郎の頭部に鈍く重い衝撃が走って、視界が暗転した。 「大丈夫!愛ちゃん!?」 そこには全身をずぶ濡れの三代吉が、立っていた。その拳は皮がさけて、真っ赤に染まっている。 「っぶあ!・・・どうして・・・?」 戒めを解かれた愛子が、突然の救援で呆気にとられている。 「オレ・・・知ってたんだ愛ちゃんが、その・・・他の男と・・・してること。 でも、オレはガキで・・・愛ちゃんを満足させられなくて・・・だから、知らないふりして・・・」 三代吉の目には涙が溢れていた。雨でずぶ濡れの顔でもはっきりと分かった。 「だけど・・・だけど心配で!やっぱり辞めてほしくて・・・それでつい来てみたら・・・」 彼の心を今占めているのは、彼女を襲われた憎しみではない。 親友を殴ってしまったこと・・・そして、失ったことを悲しんでいた。 「み、三代吉・・・」 「・・・出てってくれ」 「・・・・・・・・・ごめん」 眞一郎はヨロヨロと立ち上がると、不恰好にズボンを締めながら正面から出て行く。 戸が閉まるまで三代吉は胸からせり上がる嗚咽を噛締めていた。 「・・・ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」 愛子も頬を濡らしながら必死で謝罪する。悔やんでも悔やみきれない。 いつも自分の傍にいてくれた、自分をこんなに思ってくれていた彼。 どうして、それに気付かなかったのか、どうして向き合おうとしなかったのか。 「いいんだ・・・いいんだよ愛ちゃん・・・」 二人は抱き合うと、泣いた。赤ん坊のように、恥も外聞もなく、ただただ思いっきり泣いた。 失ったものの大きさの痛みと、今愛する人を抱きしめている幸せで。 傷だらけのプレデターが罠にかかった獲物をチェックする。 負傷兵の悲鳴は恰好の陽動になるし、死体なら盾にする。武器も回収して、再利用できる。 「・・・クァア?」 ふと見れば、棘が飛び出す壁から、それを避けた敵を吸い込む落とし穴を白い直線が結んでいる。 細いロープだった。 金属を切り出した突針はなだらかとは言い難く、その凹凸にロープの端がひっかかり、 落とし穴の口まで続いているのだ。 ジャキンッゥ 必殺のリストブレイドを展開して、身構える。 想定できるのは、罠を確認しにきたプレデターを逆に攻める仕掛け。 先に爆弾か何か、装置を取り付けているのか・・・だが見るからに稚拙だ。 これはカモフラージュで二重トラップがあるのか、と穴が何か囁いた。 「こ・・・こんなに・・・可愛い子がっ、お、女の子なわけ、・・・ないじゃないか?」 知ってる声紋だ。データから読み取れる骨格や体格からも誰なのか直ぐに分かった。 ギギギ・・・ 壁を蹴って、落とし穴の閉じられた口を開くと、その淵で少女が懸命に底へ落ちるのを抗っていた。 「よ、よかったら・・・手を貸してくれないかな?」 比呂美は地面が裂けたとき、とっさに止血用のに腰を巻いていたロープの端を、 自身を貫こうとしていた刃に引っ掛けたのだ。 何か使うことになるだろうと、余分にロープの長さを作っておいたのが幸いだった。 ミチミチミチ・・・ 「うがぁっ」 しかし、彼女の体重を支えるためそれは深く腹に食い込んで苦痛をもたらしたし、 そのロープは今にも外れそうで穴を登ろうと身を揺することもできなかった。 キュイィィィィン 「・・・!」 プレデターのマスクから伸びた赤い光線が比呂美の額を指す。 それが鉄も溶かすプラズマキャノンの道標であることは彼女もよく知っている。 「わたしは死にたくない・・・あなたもそうじゃないの?」 今は少し優勢に戦闘を展開しているプレデターだが、朽ちた檻の中で篭城を続ける限りいつかは限界がくる。 プレデターはその終末を覚悟で闘っていた。 「聞いて・・・私だけでも、あなただけでもこの包囲を抜け出せない」 いまや比呂美を殺すのに、何の造作も無い。ほんの少し、チョイと文字通りの命綱に触るだけでいいのだ。 それで穴の底で待っている針の束が、少女の形をした肉を作ってくれる。 「でも2人一緒ならきっと超えられる」 比呂美を救う義理はひとつもない。 「一人だけなら飛べない羽でも、二人揃えば翼になれる」 彼女は自分を追い回す人間の仲間だ。 「翼なら飛べる!」 比呂美は助けに来たのでも、助けを求めたのでもない。 「地べたを這ってる私でもない、雷を轟かすあなたでもない・・・私たちでここから羽ばたくのよ!」 プレデターと協力しに来たのだ。 ブツッ その瞬間とうとうロープが重力に負け、杭から外れて宙に放られた。 「あ」 プレデターが咄嗟に縄の端を掴んだ・・・が、雨でツルツルに滑って手の平を抜け、小指に引っかかる程度になってしまう。 「ひぃっっ!!」 ガクンッと揺れが襲い、ロープに捕まっていた比呂美は泥でグチャグチャの縁に手と足を掛け、ギリギリで踏ん張る。 それでも怪物の握力ならゆっくり引き上げられる筈だったが、そんな猶予はなかった。 シュカッ 突然振り返ったプレデターが通りの影にディスクを飛ばすと、血潮が広がり割れた人影が転がる。 「いたぞ!撃て撃てぇっ!!」 影から一斉に銃弾が注いでくる。キャノンで応戦するが、比呂美を支えるのに体勢をとらえ狙いがつかない。 怪物の握力とは関係なく、ロープの強度と、表面の摩擦のせいで、強引に持ち上げられないのだ。 四肢を銃弾が掠めていく。だがそれでもプレデターは比呂美の命綱を離そうとはしなかった。 「ヴオオオオオオォォォォッッッ!!」 土砂降りの豪雨が注ぐ公道を、道路工事の看板を立てた数人の警備員が封鎖している。 彼らはプレデター捕獲のため、ユタニ社が要請した民間警備会社だ。 もちろん末端のさらに端、間に合わせの彼らにそんなことを知る由はない。 「しっかし、こんなひでぇ中働かせるとはなぁ・・・」 「しかもなんでまた絶対勧告令なんか敷くんだか」 「まぁ金払いのいいのが救いだけどな」 「終わったらパーッと遊びに行くか?今度いい娘が入ったんだと」 「いいねいいねー・・・おい、来たぞ」 カーブの向うから猛スピードでバイクが走ってくる。 1メートル先の視界も不確かな天候下であの運転は、正気の沙汰と思えない。 どこぞのスリルジャンキーなライダーだろう。 とはいえ、大型車両を壁のように道路に並べているから、映画のように強行突破するのは不可能だ。 警備員たちの予想通りバイクは彼らの手前で停車した。 「はーい、ご苦労様。ここは今工事中でして、って・・・」 驚いたことにまだ十代の少年だ。しかも少女との2人乗りだ。 「君ぃ、命知らずは結構だけど、女の子を巻き込んじゃいけないよ」 少年、といっても同年代より遥かに体格もよく、マスク越しからも分かる精悍な彼がバイクから降りて告げる。 「そうもいかないんだ・・・こいつの命のために」 石動純は雨も気にせずにマスクを外すと、警備員たちに向き直って頭を下げた。 「お願いします!ここを通らせて下さい!」 少女の表情はよくわからない。だがこの雨のなか、わざわざ来るということは深刻な事情でもあるのか。 「そうしてあげたいけど・・・ここは使えないから」 「なんなら車で送ってあげようか?」 警備員たちも同情はするが、トップからの指令に逆らえばクビは必至だ。 「そうですか・・・残念です」 純は本当に残念そうにいうと頭を戻した。 ホッとする警備員たち。だが次の瞬間、彼らの表情は驚愕に凍りつき、悲鳴に染まった。 「警告はしたぞおおおオオキャアアアアアアッッッ!!!」 端正な少年の影が蠢くとその全身を包み、真っ黒い肉体と真っ赤に裂けた口と牙、そして顔を埋め尽くす真っ白い目の怪物が現れた。 仲上眞一郎はフラフラと雨のなかを彷徨っていた。 後悔などという言葉では到底追いつかない絶望感、自我をぐちゃぐちゃにしてしまうほどの罪悪感に苛まれていた。 安藤愛子、野伏三代吉。 はっきりと意識したこともないが、一生に2人と得られない友人を同時に失ったのだ。 一切の弁解なしに、ただ己の過失、最悪の所業によってばかりに。 「・・・なんで、なんでこうなるんだよ・・・」 なんで?それを自分に問う権利などある筈がない。原因はただ自身の本性が卑劣であったというだけにある。 それを知ってしまったのだ。 多くの法律や慣習、因習によって雁字搦めに封じられ隠されてきた本性、 今まで自分は世界の白い部分に属すると、意識もせず思っていたのにそうではなかった。 「仲上眞一郎は・・・・・・悪人だったよ」 そうやってひとしきり葛藤していたが、いい加減肉体が悪天候の中、傘もささずうろつくことに耐え切れなくなった。 「・・・帰ろう」 純や愛子のいうとおり、比呂美はどこかで自分の知らない男の腕のなかにいるのかもしれない。 自分がみたことのない陶然とした顔で、喜びの悲鳴をあげる比呂美の痴態が浮かぶ。 艶やかな髪を振り乱し、眞一郎のモノよりずっと立派なモノにむかって腰を叩きつけ、 胎内に子種を何度も何度も注がれる比呂美。 学生らしいキスとはかけ離れた生々しい唇同士のセックス。互いの舌を絡め、唾液を交換し、 餌を求める小鳥のようについばみ合う。 ブラジャーなしでも芳醇な乳房は垂れることなく、男の指で粘土のようにグニャグニャとこねくり回される。 その相手の男は・・・石動純だった。 「いないっていってたじゃないか・・・」 比呂美にも純にも、乃絵にも失礼な話だ。 それでも恥知らずな想像を戒める心地も起こらない。 想像の比呂美の感触を味わい、純に自分を重ね、その絶頂に同調する。 「・・・っ!」 無意識に自慰していたらしく、ズボンのなかがグッチョリと汚れてしまった。 「どうせ・・・ずぶ濡れで分かりゃしないか・・・比呂美も濡れ濡れだろうし」 ほんのつい先ほどまで、近くに感じた比呂美の存在がどこか遠く、ずっとずっと彼方にいってしまったようだ。 「母さん、ごめん・・・」 普段は口煩い母親。しかし、己が矮小を自覚したとき浮かんだのはそんな自分を見捨てないでくれた母の愛だった。 「ごめんよ・・・」 大切なものを失ってしまった、自ら零してしまったのだ。 だからこそ、確実に自分を認めてくるひとの温かさが、この今になってはっきりと分かった。 心配してほしい。凍えた肌を抱きしめてほしい。一人じゃないと信じさせてほしかった。 「宇宙生物を押さえました!現在、残存兵力を集結させています。鹵獲はほぼ確実かと」 ユタニ軍の前線司令部となっているハイテク車両内に通信が入る。 「了解した。敵の生命力は極めて強大。くれぐれも注意されたし」 吉報を受けた司令官は努めて冷静にいうと、ホッと腰を下ろした。 「クビがつながったな」 傍らにいる副官に共感を求める。 「まだ決まったわけではありません・・・が、化け物は連絡地点から何故か動けないようです。 あとは態勢を戻されないよう兵力で圧倒しつつ、止めに液体窒素弾で凍らせれば完璧です」 司令官は、まだ予断を許してはいけないと知りつつ、 勝利の美酒を思わずにおれない。 「宇宙の狩人を仕留める・・・か。今は無理でも遠い歴史において、我々の名は無限に語られるだろう」 しかし直接部隊の情報を受けた部下のひとりが、渋々といった感じで進言する。 「現場の兵たちが相当消耗しており、必要な人員をとても避けません」 副官が正確な数字を確かめるが、苦々しくかぶりを振る。 「追い詰めているのは確かです。しかし、現在の状況ではこっちのスタミナが先に尽くでしょう。 そうすれば、増援を手配するまでにヤツは高エネルギー爆発を起こすでしょうね・・・」 「なんてこった!」 司令官がやるせない憤懣で机を叩く。 正しく千載一遇の機。ほんのもう少し、押し続ければ悲願が叶うと分かっているのに、 その寸前に至って、ゴールテープを目前にして力尽きるのか。 「くっ・・・止むを得まい。化け物が本当に追い詰められてるなら、今こそアレを使うぞ」 副官が即座に理解して、あつらえた金庫を空けるとトランクを引き出し、 長々とした手順で封を解除していく。 そして最後のキーに辿りついたとき、今一度司令官に問う。 「これで仕留められなければ私たちの命はないでしょうね?」 「それは今ヤツを倒せなくても同じことだ・・・やれ」 「了解」 箱に収まっていたのは、電話だった。 司令官は受話器をとると、コードを押してどこかに連絡する。 「こちら最前線対策司令部指揮官。認識コードXXXーXXXXーXXX」 「確認しました。命令をどうぞ」 「‘強化外骨格’の使用を要請す」 部隊から離れて近くの山中に隠れていた輸送用コンテナを配備したヘリが飛び立つ。 その内側では、大型の機械が起動を開始した。 「さて、あとは祈るばかりだな」 ユタニの前線司令官が副官に向き直る。 今回の有事に対し、友好企業のウェイランド社から本社が直接交渉して借り受けた切り札。 分厚い書類と手続きの末に使用の有無を本社から許された試験兵器。 「ええ、待ちましょう・・・」 この最重要機密を万が一にも知られないため、自軍を含めた周囲一帯に強力な通信障害を施すことになる。 そのため本当に、あとは祈るしかないのだ。・・・もっともそれはある意味、正しかった。 ビーッ!ビーッ!ビーッ! 「何事だ!?」 緊急事態を警告するサイレンが響く。同時に車内のランプが非常用の真っ赤なライトに切替わる。 「わ、分かりません!友軍との連絡が急に・・・!」 モニターに示された味方の位置を知らせる光が、瞬く間に消失していく。 「馬鹿なっ!まだ早いぞっ!・・・ん?」 真っ赤なランプの光が奇妙に歪む。まさかこのシルエットは・・・! ガキュンッ! 異変に気付いた副官が虚空に向かって、ホルスターから抜いた銃を撃つ。 すると空中で青白い放電が奔り、そこに色を塗るようにして、凶悪な狩人の姿が現れた。 「馬鹿なっ・・・何時から!?」 あちこちで青白い光と、真っ赤な爆発が起こり、焼けた鉄の音が広がる。 「始まったか・・・」 穏やかでない手段によって最初の警戒線を超えてきた純は、路肩にバイクを停車して、 付近の山々から微かに届く花火の連鎖を眺めていた。 乃絵の目にはその光景を見つめる兄が恍惚としてるように思える。 「行くの・・・?」 純がバイクから降りると、妹を雨から庇いつつ庇いつつ、乗り手のいなくなったトラックに移す。 「ああ、乃絵はここでじっとしてるんだぞ」 「できれば・・・誰も殺さずにやれないかな?」 縋るような目で兄に訴える。これから戦場にいくのに無茶だというのは分かる。 ただ、自分の罪悪感ばかりではない。このままでは純の心まで真っ黒になってしまう予感があったからだ。 「どの道、プレデターは皆殺しにするつもりだ。 下手に町に逃げられたら、平気で巻き込むぞアイツラは」 乃絵に嘘はつけない。だから口約束をせず、純は道理を説く。納得できなくても、だ。 「じゃあなんで自分たちだけでやらないの?仲間を助けに来たんでしょ」 青年はつい笑ってしまう。確かに人間の常識で考えるとそうなんだが、 「それが少し違うんだな・・・あの戦闘ジャンキー共にとって、 戦いに救いを差し伸べるのは酷い侮辱なんだとさ」 大体自分から宇宙を飛び回っては、頭蓋骨のトロフィーを作りまわってるくせに、 何を拘るのかという価値観だ。 「だから已むを得ず・・・、技術を奪われそうになったりした時にだけアイツラは動く。 結果的にそれが助けになるなら、せめて代わりに試練をたそうってわけだ」 乃絵は納得するどころか余計憤懣にかられた。 「じゃあ自分たちでやればいいじゃない!」 「そうもいかないんだ・・・。何しろ年中ドンパチやってる異常な宇宙人が 仲間同士で殺し合いを始めたら、あっという間に絶滅しかねない」 「それでお兄ちゃんが代わりに戦ってほしいって・・・ 身勝手迷惑の塊じゃない、どこの星で育ったらそうなるの?」 純は肩を竦める。なんにせよハンカチでも咥えて、号泣して見送られなくて幸いだ。 「さてね・・・。でもオレが選ばれたのはコレ、 共生体‘シンビオート’と共鳴したかららしい」 仲上眞一郎が訪ねてきたとき、必要以上に荒れたのは宇宙アメーバのせいだったのか。 その黒いコスチュームに親しみの感情を向ける純が乃絵にはつらい。 それは兄をおかしくさせていると、どうして気付かないのか。 「あ・・・雪」 鼻に伝わる冷えに乃絵が空を見上げると、 いつの間にか降りしきる雨は嘘のように止み、代わりにキラキラとした結晶が降りてくる。 純は妹の瞳に照らされた白い輝きを認めると、それを失うまいと決意を固くする。 「そろそろ行く」 「ん」 乃絵がトラックの奥に引っ込むと、肩を震わせて白い息を吐く。彼から目をそらして、その姿を見ようとしない。 プレデターの命令に従って、ここに来るまでずっとむくれていた。 眉を寄せて、苦そうに笑う純は上着を脱ぐと、彼女に渡す。 「預かっといてくれ・・・」 「・・・ん」 濡れた上着を懐に抱きしめ、兄の温もりを確かめる乃絵。彼女は思う。 もし戻ってきたとしてもそれは‘石動 純’なのか、と。 その不安に駆られて我慢できず兄に顔を向ける。 純も乃絵を見つめていた。その眼差しは温かかった。 いつもの、いつか分からないほどずっとずっと昔からそこにあった。 それだけはきっとこの先も変わらないのだと、 そう確信できる光がそこにはあった。 「いってらっしゃい、お兄ちゃん」 「じゃあ見ててくれ・・・オレの‘変身’!」 血と肉、鉄と炎に染まった土を白銀の雪が覆い隠す。 そこに踏み出した少年の姿が、そおだけ光が吸い込まれたように黒く輝く。 白い牙のような模様が刻まれたマスクをしばし向けると、何もいわず彼は駆け出した。 夜中にお使いに出た湯浅比呂美はレイプ集団に襲われるが、死闘の末勝利する。 近くまで来ていたプレデターは、その勇敢さを称えて、ちょっと挨拶に現れるが、 そこにプレデターを追って、日系企業ユタニ社の軍隊が登場。 熾烈な争いの渦中に比呂美も巻き込まれ、撃たれてしまう。 一方、眞一郎の母は丁稚とカーセックス。 眞一郎は、安藤愛子の乱交現場を目撃したショックで愛子を強姦。 幸い三代吉の活躍で未遂に終わるが、同時に友情も終わった。 そのころ、プレデターの仲間に乃絵は爆弾をつけられ、 純も寄生生命体を植えつけられて‘ヴェノム’に改造されてしまう。 それは純をプレデターの敵にするためだった。 ユタニの軍はプレデターの仲間によって駆逐されつつあったが、 最後に‘強化外骨格’なるものを投入していた。 そして比呂美はプレデターに協力を提案するが、 その矢先、落とし穴に落ちて、早くも足を引っ張ることに。 ユタニの残存兵力が集結するなか、プレデターは比呂美を守って闘うことになる。 (ここまでが前回までのあらすじ) 路地の真ん中で、針の落とし穴に落ちそうになる比呂美をギリギリで支えたまま、 プレデターは前後から注がれる砲火に応戦する。 「グゥウッ・・・!」 彼の怪物が自己の生死さえ貧窮している極限で、比呂美の命を救う義理立てなどない。 というか、そうでなくても助けることはなかったし、 実際比呂美がレイプ犯に囲まれたときも手を出さなかったくらいだ。 しかし、今はまさに命がけで彼女の体を支えている。 「・・・ごめんなさいっ!」 比呂美がプレデターの小指に掛かった自身の命綱を、身を揺すって振りほどく。 「クァア!」 彼女の自殺行為に、プレデターが心外、といった声を上げる。 生きたい。本当に死にたくない。 その思いが強いからこそ、同じく懸命に足掻くものの邪魔をしたくなかった。 一分一秒でも長く呼吸するのではなく、意思を持って前進することが生きることだ。 だからその志をせめて、同じ渦中にある戦士に託すことが、 比呂美なりの生存欲求、運命への抗いといえた。 それでも、その英断は自身を永遠に喪失するのを代償としたことに変わりない。 ほんの一瞬、しかし四肢を突き刺される確実な苦痛。その恐怖を歯を噛締めてこらえる。 後悔などしない。いや、どうせ手遅れだからしてもいいか。 瞬きにも満たない刹那の間に、 比呂美は高潔な決断と、気の抜けた諦観を同時にやって、自身の最期をやり過ごすつもりだった。 ヒュー ガキッ 「っ?・・・へ」 プレデターの片腕から発射されたネットランチャー・・・本来、獲物を縛り上げ、その体をサイコロステーキのように、 解体する殺傷道具が、比呂美を落とし穴の壁面に貼りつけ、死に至るのを阻止していた。 「あ・・・あぁあ・・・」 途端に比呂美の肌を、電気のように生きている悦びが駆け抜ける。 「グゥウオッウ!」 しかし彼女に注意を向けた怪物の背に、太い杭が打ち込まれる。 その先端は鉤状になっており、鉄線を編んだ太いワイヤーが それを引き寄せて深く肉に食いこみ、ガッチリと拘束して引き寄せる。 「「ガァアアアッッッ!!」 プレデターは決心すると、そのまま敵に突進していった。 直進すれば、それだけ的に晒されて、集中的にやられてしまう。 事実、今まではなんとか肌を掠める程度だった攻撃が、もろに前面に注いでくる。 一歩進むだけでも、窓にぶつかる虫のような足掻きだったが、それでも止まらない。 プレデターが比呂美を助けようとしたのは、ほんの気の迷いだった。 自身に向かって懸命に協力を訴える少女が消えそうになったとき、つい手を出しただけだ。 このモンスターに干渉や後悔の類は縁がないが、一方で、リスクに左右されるような迷いや躊躇もしない。 助けようとしたのだから、手向かわない限りは最後まで助ける。 つまり比呂美に何かを期待したわけでもなかった。 だから、あれほど懸命に足掻いていた彼女が自分のために動いたこと、約束を守ったことが嬉しかった。 孤軍のなかに射した、ほんの小さな光。それが力になった。 ドシュッ!ガキィッ!メチッ! 「ひいいいいぃぃぃ!」 それでも兵隊の束に、自らを槍として叩き込み、その懐にもぐりこんだプレデターは五体を振り回して、応戦する。 たった今、小さな少女が見せた勇気、それが怪物の攻勢に向かう意思を目覚めさせ、発揮させた。 ユタニの兵たちはもう殆ど肉体的にはプレデターを殺していた。 事実、かつての歴史でこの種族を単身で打ち破った人間のように、冷静かつ捨て身で挑めば、倒すことができた筈だった。 しかし、手負いの獣が見せる悪鬼そのものも蛮勇に気圧され、結果として逆に死ぬこととなった。 気付けば残った最後の一人が、背を向けて逃走する。 「・・・ルウゥゥウッ・・・」 プレデターも満身創痍極まる感じで、追おうとしても水漏れのように、膝から力が抜けていく。 だからノロノロと背に突き刺さった杭を引き抜くと、欠けたリストブレイドでワイヤーを丁度よく切断すると、 カウボーイのように腕に携えてそれを振り回す。 すでに敵は通りの向うに消えていたが、化け物じみた(?)感覚で、位置を把握すると、 目に届かない向うに杭をぶん投げた。 「ごひゃっ!?」 目の届かない通りの向うで断末魔が弾け、それっきり静かになる。 轟音で溢れかえっていた戦場はいつの間にか、かすかに焼けつく炎の音だけになっていた。 気がつけば、濁った雨はやんで、静かに雪が降ってきている。 「終わった・・・んだ」 ネットを半分だけ剥がして、足場にし、穴から外を覗いた比呂美はホッと息を吐く。 フラフラのプレデターが応えるように彼女を振り返る。そのとき、 シュバァッ! ドグォオオオオオンンンッッッ!!! 空から青い閃光が轟き、プレデターのいた地面を吹き飛ばした。 「グゥオァッ!?」 手負いの怪物に対する不意打ちの効果は絶大で、受身も取らず宙に飛ばされると、 瓦礫に跳ね返って地面を転がった。 「この醜い化け物が・・・っ!皆殺しにしおってからに」 空から重厚な排気音を響かせて、巨大な鉄の塊が降りてくる。 驚いたことにそのデザインはまるで、展覧会に出品されるような洗練されたルックスと圧倒的な重量感、 攻撃的かつスタイリッシュなフォルムは最新鋭の工業製品であることを示している。 「ロボット?」 3m以上はある真っ白い鉄の塊が、人の姿をしている。 胴体からは2対の小さな─全体から比べればであり、そのサイズは大人の腕と変わらない─腕が生えた 四本腕使用で、それは巨大な腕と連動しているらしく、指先まで同じ動きをする。 全身は無骨さを感じさせない美しい稜線で構成されていて、美しくすらある。 「仇は討たせてもらうぞ・・・貴様だけでは足りないがなぁ!」 しかし、デザインから逸脱した乱暴な台詞が、ノイズのないスピーカーから出ると、 グッタリと伸びたプレデターを蹴り上げて、浮き上がった背中に肘を叩き込む。 「グォオオッッアァア!?」 プレデターもしがみつくようにして、強化外骨格にパンチを打ち込むが、 わずかに胴体が揺らいだだけで、逆に押さえ込まれると、足を掴まれてジャイアントスイングをかけてきた。 「おらぁあああっっ!!」 止めとばかりに、その図体を大地に投げ落とす。とても機械とは思えない自然で滑らかな動きだ。 外企業のウェイランド社が未来の兵器市場に並べるべく開発したそれは、 歩兵に「ゴリラも容易く倒せる怪力」と「戦車並の装甲」と「戦闘車両並の重武装」と 「要塞並の環境適応力」と「戦闘ヘリ以上の機動力」を持たせた装備である。 最大の特徴は「マスター・スレイブ方式」、 即ち着用した人間の動きをそのままフィードバックして動かせる点であり、 従来の搭乗兵器から格段に飛躍した操作性を誇っている。 文字通り手足の如く、だ。 さらに内蔵されたシステムは、ヘルメットのサイバネティックインタフェースで読み取られた 脳波パターンによってコントロールされている。 人工知能をベースにしたオペレーティングシステムを備えた非常に洗練されたもので、 様々な戦術的な情報を提供し、内外のセンサーを使って常にスーツの状態をフィードバックしている。 思考そのものがマシーンと同化した、といってよい。 故に武器を交えた総力戦ならともかく、肉弾戦に限定すればプレデターに互角以上の勝負も可能なのだ。 参考画像→http //thumbnail.image.rakuten.co.jp/s/?@0_mall/digitamin/cabinet/timg4/t8685.jpg つづく truetearsVSプレデター5
https://w.atwiki.jp/blu-rayanime/pages/217.html
true tears 発売日 2009/03/26 価格 ¥24,990 発売元 バンダイビジュアル 構成 3枚 収録内容 全13話(本編314分+映像特典 約62分) 画角 16 9 日本語音声 コメンタリー なし 他言語音声 なし ソース オリジナルHD その他 サイト専売:限定生産:ブックレット(64P) http //www.truetears.jp/bd/#qa
https://w.atwiki.jp/true_tears/pages/385.html
622 名無しさん@お腹いっぱい。 sage 2008/06/12(木) 00 37 05 ID 1Hli0F8x 嬉しいことがあっても持続しないのが難点(つД`) 623 名無しさん@お腹いっぱい。 sage 2008/06/12(木) 00 44 11 ID QrEv1xzQ 622 これからはずっと隣にいるんだし 624 名無しさん@お腹いっぱい。 sage 2008/06/12(木) 00 51 29 ID w/bmQYho 623 何それ?プロポーズみたい・・・ 626 名無しさん@お腹いっぱい。 sage 2008/06/12(木) 00 58 33 ID ZQy0sxD9 プロポーズと言えば数年後から云年後の中学、高校の同窓会の妄想が止まらん なんだよ仲上~やっぱりゴールインしたのかよー、って 627 名無しさん@お腹いっぱい。 sage 2008/06/12(木) 01 07 30 ID KGfymZHb むしろ高校卒業パーティーで比呂美が女子有志にウェディングドレスを着せられて 擬似結婚式をやらされる 628 MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM sage 2008/06/12(木) 04 18 10 ID 4vQweaQL 627 true MAMAN最終回後(十一幕後)として読んでください 卒業式が終わった。 高校生活の終りである。全ての卒業生にとって大なり小なりさまざまな想い出を残し、ひとつのステージを終えた。 その中の極一部にとっては、最後の一ヶ月に鮮烈な記憶を残した者たちもいる。黒部朋与、浅海絹もそんな一人だった。 「さーパーティーだ、パーティー!食うぞー!歌うぞー!騒ぐぞー!」 「朋与、はしゃぎすぎだよ」 あさみが窘める。結局名古屋の大学には落ち、春からは朋与と同じ大学に通う事になっている。 「いいじゃない、今日くらい、無礼講よ、無礼講」 「今日『くらい』?するといつもはあれでも自重してるつもりだったのか?」 三代吉が茶化す。が、その三代吉も浮かれているのか、顔が崩れ気味だ。 「朋与。騒いでもいいけど今日の目的は忘れないでね」 「わかってるわよ。朋与さんにまかせない!」 朋与が請合えば請合うほど、美紀子の不安は増大していく――。 「比呂美、足下気をつけてね」 パーティーは同級生の家が経営している喫茶店「ジェルラン」で開かれた。広さも十分だが、階段が急なのが難点で、朋与が殊更比呂美に対して 神経質になるのも、2月の事件を考えれば無理からぬ事だった。 「うん、ありがとう」 比呂美のお腹の子は19週目に入り、服の上からでも大きくなっているのがわかるようになってきた。朋与の手を支えに、ゆっくりと階段を上がっていく。 「よし、昇りきった」 「ごめんね。眞一郎くん、野伏君と一緒に買出しに行っちゃったから・・・・」 「いーのいーの。こんな時の為の親友でしょうが。さ、入って」 比呂美の為にドアを開け、中に通す。比呂美が中に入ると、真由、あさみ、美紀子が待ち構えていた。 「・・・・?どうしたの、みんな?もしかして、私が最後?」 後から入った朋与ともども、意地の悪い笑みを浮かべる級友達。 「今日の主役は、あ・な・た。比呂美が来ないと始まらないのよ」 「え?それはどういう・・・・」 真由と美紀子が後ろ手に隠していたものを掲げる。比呂美はそれがなんなのか暫らく見極めていたが、理解した瞬間、大きく目を見開いた――。 629 MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM sage 2008/06/12(木) 04 18 35 ID 4vQweaQL 「おい、こんなにたくさんのクラッカー必要なのかよ?」 眞一郎が文句を言う。 「必要だから買ったんだよ。決まってんだろ?」 三代吉がさも当然、というように答える。 三代吉は何度も時計を気にしていた。それでいて、一向に急ぐ様子はない。 「なあ、何かあるのか?さっきから時間ばかり・・・・」 その時、三代吉の携帯が鳴った。メールを確認し、ニヤリと笑うと、眞一郎に振り返る。 「よし、じゃ、急ぐぞ、眞一郎」 会場に着くと、飾りつけも終わって、一同が二人の帰りを待っていた。 「諸君、待たせたな」 三代吉が言いながら、買ってきたクラッカーを全員に配っていく。事情が飲み込めないながらも眞一郎も受け取ろうとしたが、 「お前はいいんだ」 と断られ、さらに他の男子に引っ張られて事務所の入り口の前に立たされた。 「なんだ、どうなってんだよ?」 「黒部、OKだ!」 三代吉の合図と共に証明が落ち、不自然に布がかけられていた壁の一角が露わになる。それと共にファンファーレが鳴り響いた。 メンデルスゾーンの結婚行進曲だ。 「これは――」 眞一郎が呆然としていると、事務所のドアが開いた。 純白のドレスと、ベールを纏った比呂美が出てきた。 「比呂美・・・・これは?」 比呂美は黙って、恥ずかしそうに頬を染めた。 一斉にクラッカーが音を立てる。 「さ、仲上君。花嫁の手を取って」 「黒部さん・・・・これは?」 「あなた達、式挙げられなかったでしょ。だから私達で、真似事だけでもしてもらおうと思ったの。ドレスも手製よ、よく出来てるでしょ?」 「おじさん、おばさんももうじき来る筈だぜ。神父さんは用意できなかったが、それはかんべんな」 「さ、早く。花嫁に一人で歩かせる気?」 あさみに促され、眞一郎は比呂美の隣に立った。比呂美が眞一郎の腕に手を回す。 即席のバージンロードの両脇を級友が並び、拍手で新郎新婦を迎える。手作りの結婚式はこの後3時間、眞一郎と比呂美に忘れられぬ 想い出を残した。 了 630 名無しさん@お腹いっぱい。 sage 2008/06/12(木) 05 48 07 ID GiH9LJro スイスwwwwwww 開催国wwwwwwwwwwwww 631 名無しさん@お腹いっぱい。 sage 2008/06/12(木) 05 59 11 ID wtxiZz/l フレイがいないからどうしようもないね スレチガイだね 632 名無しさん@お腹いっぱい。 sage 2008/06/12(木) 09 24 24 ID KGfymZHb 628 おお書いてくれたんだ 純白のウェディングドレスの比呂美と手を繋ぐ眞一郎みてぇぇ 633 名無しさん@お腹いっぱい。 sage 2008/06/12(木) 10 30 34 ID rWEaPgXp やっぱりあの2人だとデキ婚だよなw 比呂美の計画通り 634 名無しさん@お腹いっぱい。 sage 2008/06/12(木) 10 40 22 ID 1Hli0F8x ないない
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true MAMAN 最終章・私の、お母さん~第一幕~ 「明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします」 「明けましておめでとうございます。どうぞお上がり下さい」 比呂美が6組目の来客を迎え入れる。今度の一家は理恵子の父方の叔父とその息子 夫婦で、眞一郎から見れば「大叔父」に当たる。 大叔父と比呂美は互いに初対面だが、事情は既に理恵子から聞かされているらしく、 少なくとも表情に出しては困惑しなかった。 これで合計19名、思ったよりは少ないが、全員揃った事になる。 少ない理由は、比呂美と同世代の、例えば大叔父の息子夫婦の子供などが全く来て いないせいもある。 「あの、みなさんお子さんは連れてこられないんですか?」 理恵子に訊ねると、 「お酒も入るし、もっと小さい頃なら子供同士で遊ばせる事も出来るけど、高校生に なるとね」 「でも、それなら眞一郎くんも――」 「あの子はいいのよ。二人ともここの跡取りとしてもてなし方を憶えないと」 理恵子はさりげなく、しかし重大な爆弾を落とした。比呂美が目を丸くする。 「おばさん!?」 「さ、始めましょう。大叔母さんは早いから煽られないようにね」 理恵子は少しだけ悪戯ぽく笑った。 その少し前。 眞一郎は機嫌が悪かった。 去年もそうだが、元日は家族で暮らし、2日は両親が年賀の挨拶に呼ばれ、眞一郎と 比呂美が留守番をする。つまりは2人水入らずで正月を過ごせるという事で、大いに楽 しみにしていたのである。まして受験もあってここ最近ほとんどデートもしていない。 ようするに、これが受験前に比呂美と2人だけで過ごす最後のチャンスだったわけで、 それがこんな形でご破算となってむくれていたのである。 「眞一郎、その眉間のしわ、何とかしろ。正月だぞ」 ひろしが嗜める。 「んな事言ってもさ・・・・」 「大叔父さんや大伯母さんの前でも、そんな顔してるつもりか?」 「なんで今年に限ってうちで年始の集まり開くんだよ?こっちは受験生だぜ」 「どの途勉強などせんだろう」 実も蓋もない物言いに眞一郎がますます不機嫌になる。 「比呂美だって・・・・準備で立ちっぱなしで・・・・疲れてるだろうに」 「だから、これでいいんだ。年始周りで何軒もはしごさせるより、こうして集めてしま えば紹介が一度で済む」 眞一郎がひろしを見る。ひろしの表情はほとんど変らないが、何故かこの時、眞一郎 にはひろしが悪戯ぽく笑ってるように見えた。 「親父・・・・初めから、そのつもりで・・・・?」 「比呂美がどれだけいい娘か、俺達が口で言うより、働いている姿を見せた方が早いか らな。 「男衆の相手は俺達の仕事だ。蔵は継がなくても、家を継ぐ以上はお前も振舞い方を覚 えておけ」 ひろしが眞一郎に向けて言う。 理恵子と比呂美、それにひろしの従兄弟の妻と理恵子の妹の4人で料理と配膳を進めて いく。比呂美は初参加だが、元来気の利く娘である。すぐに順応して流れに入っていく。 居間と隣の部屋の間仕切りを取った広間で待つ側も、この若い新参者に対し、特に変 わった反応をするでもなく、理恵子たちと同じように接している。 家族が増えることには慣れているのだ。特別視されない事が比呂美は嬉しかった。 途中、理恵子の妹と2人だけになる時間があった。 「大丈夫?疲れたんじゃない?」 「いえ、大丈夫です」 「比呂美ちゃん、だっけ?姉は厳しすぎたりしてない?」 当然の話だが、理恵子と比呂美の間にあった事は一切家の外に漏らしていない。理恵 子の妹の言葉は、一般論としての心配である。 「いえ、とても優しくしてもらっていますから」 「でも、最初のうちはうるさいと思わなかった?変な話、眞ちゃんと外歩くのも 駄目とか、 そんな事言われなかった?」 「・・・・本当に最初の頃だけですから」 比呂美は事実よりかなり控えめに肯定した。 「悪くは思わないであげてね。姉も、その・・・・おめでた婚で、随分言われたから・・・・」 比呂美もその話は理恵子から聞いていた。保守的な田舎町で、しかも地元でも有名 な旧家の跡継ぎの話ということで、かなり肩身の狭い思いをしたのだと。それ以来近所 の噂に異常に過敏になっていたと打ち明けてくれていた。 『だからと言ってあなたの行動まで縛る言い訳にはならないけど』 そう理恵子は詫びていた。 「うちみたいな普通の家庭の娘が、仲上の嫁に、それも、子供が出来たからって理由で でしょう?かなりひどい事言われてね。正直に言うと、私まで悪く言われて、暫らくお 姉ちゃんが嫌いになったくらいよ」 「・・・・そうだったんですか」 「でも、お姉ちゃんはもっと辛かったんでしょうね。好きな人との間に出来た命なのに、 ある事ない事言われて・・・・奥さん、あ、眞ちゃんのお祖母ちゃんね、あの人が味方してく れなかったら、耐えられなかったかもしれない」 その話も理恵子から聞いた。本人を前に構わず噂話をする近所の人に、義母はつかつか と近づいていき、 『私の娘に不満があるなら、私にお言いなさい』 と一喝した、という話である。 「ところで比呂美ちゃん、姉の事はどう呼んでいるの?」 「え?あの、おばさん、ですけど」 「今度、『おかあさん』て、呼んでみたらどうかしら?」 「え?」 「遅かれ早かれ眞ちゃんと一緒になるんでしょう?姉が今日仲上に皆を呼んだのも、比呂 美ちゃんを紹介するためなんだろうし、もうお義母さんでもいいんじゃないかしら」 比呂美は赤面した。朋与や他の友人からもからかい半分に言われる事もあるが、親類― ―に、なる予定の人物――から言われるのは重みが違う。 「そうですね・・・・そう呼べるようになりたいです」 微妙な言い回しに理恵子の妹は少し怪訝な表情をしたが、すぐに笑顔になり、 「お願いね」 とだけ言った。 宴は賑やかなものだった。 仲上家を入れれば23人が一堂に会するのである。まとまりも何もあったものではない。 ひろしも一世代上の親戚に囲まれてはいつもの厳格さを保ってはいられず、「ひろちゃ ん」「ひろ坊」と子ども扱いされている。さらに酒が進んで口が滑らかになっていくと、 理恵子や眞一郎が何度も聞かされているひろしの幼少時の話を、新たな家族に吹き込むの だった。 「比呂美ちゃん知ってるかい?こいつ泳げないんだぜ。3つの時初めて海で遊んで、波に 足取られて膝までしかない所で溺れてさ、以来水が怖くてしょうがないんだよ」 「二つのこと同時に出来ない男でな、大学の時だっけ?研究室とアパート往復する生活で 飯抜き過ぎてアパートで倒れたって話。理恵子さんが見つけなかったら、あのまま餓死し てたんじゃないか」 「おじさん、そんな昔の話は・・・・」 「今更照れるな、みんな知ってることだろう」 正確に言えば、その時ひろしを発見したのは理恵子ではない。もっとも、理恵子は訂正 する気はとっくにない。本当の発見者の娘は今行儀よく耳を傾けている。 その一方では、ひろしの伯母が、 「ところで理恵子さん、この煮つけ少し味が変わったようだけど?」 「ええ、少しですけど。お口に合わなかったでしょうか?」 伯母は不満とも満足とも言わず、 「ここの味は、新しい嫁が来るとその家の味になるねえ」 とだけ言った。 「ひろしもこれで一安心だな。眞一郎もいい嫁さん見つけたし、後は家継いでくれりゃ孫 の面倒見ながら隠居生活だ」 ひろしの従兄弟の言葉に、眞一郎と比呂美が同時にジュースをこぼす。 「孫が生まれたら、また樽酒が出てくるのかねえ」 「眞一郎が生まれた時の兄貴は凄かったからな」 「三日三晩家の前で振舞い続けたんだっけ?知ってる人も知らない人も関係なく」 周りが勝手に盛り上がっていく中で、眞一郎と比呂美は赤くなって小さくなっていく。 そんな中、ひろしは冷静に 「眞一郎は酒蔵は継がないから、まだまだ隠居は出来ませんよ。それに、比呂美は眞 一郎には関係なく、うちの娘ですから」 と応じる。理恵子と、比呂美は、それぞれにハッとしてひろしを見る。 「そうだ、眞ちゃん美大受けるんだっけ?まあ、絵描きなら兼業しながら続けていく事も出 来るし、ラベルのデザインでも幾らでも協力できるだろ。問題ない、問題ない」 客人には2人の一瞬の動揺は気づかれる事もなく、宴の雰囲気の中で明るく流れていった。 来客が皆帰る頃には、時間もかなり遅くなっていた。 「片付けは明日やりましょう。今日はうちに泊まっていきなさい。お布団用意するから」 「いえ、帰れますから」 「でも、眞ちゃんもう起きそうにないから・・・・」 眞一郎は、あの後、大叔父に酒を注がれ、断りきれずに飲んでしまった。30分後には 撃沈し、親戚一同を嘆かせていた・・・・。 「・・・・そうですね。それでは、お言葉に甘えます」 「それじゃあ支度してくるから、今日は早く寝なさい。あまり食べてなかったし、疲れてる のでしょう?」 「ありがとうございます。私、お風呂沸かしてきます」 そう言って比呂美は浴室に向かった。 確かに少し気分が悪い。酒の匂いに当てられたのか、物を食べる気にならなかった。 宴自体は楽しかった。親戚は皆優しく、昔からの家族のように接してくれた。ひろしか ら娘と紹介されたのも嬉しかった。今まで漠然と「仲上家に嫁ぐ」と考えていたが、仲上家 の娘というのは、より家族として強く結びついている気がして、それが比呂美には嬉し かった。 風呂に湯を張り、暫らく眺める。そろそろ戻ろうと思ったとき、胃が暴れる感覚が襲って きた。 洗面所の蛇口を開き、吐きながらも洗い流していく。口をゆすぎ、鏡に映った自分を見る。 「まさか、そんな・・・・」 この2ヶ月、自分の身に起きていた変調を、比呂美は今まで考えないようにしていた。 常に注意していたし、眞一郎も気を遣ってくれていた。しかし――。 誰にも言っちゃいけない。 まだそうと決まったわけではない。思い違いだって十分ありうる。 センター試験も目前に迫っている。今こんな話で動揺させてはいけない。眞一郎の将来が掛 かっている。自分の事で煩わせてはいけない。 比呂美はそう決心した。 了 ノート このタイミングでの妊娠は当初からの予定通りです 同世代の遠縁を招いていないのは比呂美を印象付ける為、台所を手伝うのが全て外様の人達なのはその方が比呂美に 教えやすいからです true MAMAN 最終章・私の、お母さん~第三幕~
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それは銀河系の彼方、深く冷たい闇から来た。 それは誇り高く、使命と伝統のためなら躊躇なく殉ずる覚悟を持つ戦士であり───残虐無比であった。 富山県某市。夜道を長い髪をした清楚な少女が歩いている。 日はとっくに落ち、いくらかの人はもう寝ているであろう遅くに、年若い少女がたった一人でいるのは理由がる。 彼女の母親─住まい先の─に命じられ、取引先の家庭に届け物があったのだ。送るという相手の誘いを断り、今は帰宅の途であった。 名を湯浅 比呂美という。 怪物の目的は砺波市にある自衛隊駐屯地であった。 強襲を受けた防人は寸前まで勇敢に抗ったが、凄惨な最期を迎え、心ならずも自らの髑髏を怪物に明け渡した。 とはいえ決死の反撃に怪物も手傷を受け、邪魔をされずに傷を癒すためにそこから遠くへ足を運んだ。 「やめてっ・・・!くぅうっ!はな・・・して・・・!ゲッホ!」 道脇に停車してある黒いバンの中からくぐもった悲鳴が漏れる。しかし、近隣の住宅に届くには小さすぎる。 比呂美が車のエンジン音に気付いたときには手遅れだった。 ヘッドライトを消して猛スピードで比呂美の行く手を塞いだかと思うと、中から無数の手が伸び彼女を引きずり込んだのだ。 「おら手ぇ押さえろ!そっちそっち」 「足開けボケ!殺すぞアマ!」 「かわいいねーきみー。高校生?ビデオで全部撮ってあげるからねー♪」 「あれ、ケンジやんねーの?めっちゃおまえの好みじゃん」 「ジョジョの新刊読むからパス」 彼らは県外から来た一流大学のサークル仲間だった。平静は品行方正で通り、金にも女性にも不自由しないエリートにも関わらず、 月に何度か周囲には男だけの親睦合宿と称して、地方の娘をレイプして回る凶行を何年も繰り返していた。 比呂美を選んだのもたまたまという、それだけであった。 「おねがいします・・・云うこと全部聞きますからホテルでしてください」 恐怖で気が狂いそうになりながらも、必死で冷静を保つ比呂美は抵抗を止め、痛みを最小限に留めることにする。 「えーマジー!!超淫乱じゃねオマエ。どーする?」 「たまにはいっか。あ、逃げらんねぇように服全部脱がしとけよ」 「・・・自分で脱ぎますから、破かないでください」 抵抗しないならレイプの醍醐味は半減である。それに落ち着いて見るとTVでもそう見かけない稀な美少女といっていい。 彼女が進んで奉仕してくれるのならそれはそれで大いに楽しみようがある。 比呂美は自ら進んで裸体になっていく様を鑑賞される恥辱を必死に耐える。 (眞一郎くん・・・助けて!) 全身を嘗め回すような視線を感じる。視姦されているのだ。己の内面が汚れていくのを感じる。 いっそ必死で抵抗すれば尊厳は守れる。そう、愛しい人に対する心は。 しかし、そうすれば身体に残った爪痕によって、彼に愛してもらう、ほんの微かな希望さえ失せてしまうのではないか。 彼はそんな人物ではない。それは確信できる。 しかしそれでも肉体に証拠が残らないよう努力する行動を選んでしまう。 胸が膨らんできてサイズの合わなくなってきたシャツを窮屈そうに脱ぐと、豊潤な乳房がたゆんと弾む。 その間も比呂美は歯が鳴るのを堪え、膝が震えるのを我慢していた。 指がジーンズのジッパーにかかり、淡い縞のショーツを露にして、わざと臀部を見せ付けるようにするのも、 両目にたたえる殺意を悟られないためである。 しかし被虐心を起こさせまいとする比呂美の過剰な演出は裏目に出る。 一同はホテルについてから事を行う、という了解がなんとはなしにできていたが、 男子ばかりの臭いが充満した車内にあって、若く健康な少女の放つ芳香はたちまち場を狂わせてゆく。 汗の染み付いたスポーツブラを外し、薄桃色の乳首が現れたところで遂に一人が暴走する。 「おぉぉぉ!マジたまんねぇわ!一発抜かせろよ」 盛りのついた雄が比呂美の柔肌に覆いかぶさり、滾った肉竿が太ももに擦れると全身に悪寒が走る。 「やっ!ホ、ホテルで・・・待って・・・」 願いも空しく首筋を舌が這い回り、乱暴に胸を揉みしだかれ乳頭を捻られる。 「あっ!・・・くっうぅう・・・んっ~!」 尻をこねこねと弄繰り回され、唾液を頬に垂らされると比呂美の精神は限界に達した。 今の瞬間まで心を殺して、現在の悲劇を他人事のように思おうとしていたが、 女子の尊厳を踏みにじられる汚辱を実感するに至ると、彼女の怒りがそれを許さなかった。 「あっ、初めてだから、キ・・・キスしてください」 比呂美は男の腰に太ももを絡ませ、首に手をかけると強請るように舌を伸ばす。 「へっ、度スケベが」 比呂美はむしゃぶりつくように口腔をぶつけ、舌を絡ませながら、男のズボンの中で窮屈にテントを張ったペニスを探り出す。 周囲も漫画でしかありえないと思っていた和姦の様に、手を出さず鑑賞を決める。 狭い車内で体勢を入れ替え、比呂美が男の上になると自らの秘所も慰めつつ、フェラチオの体勢に入る。 「おねがい、じっとして・・・」 運転していた男もとうとう溜まらずに、ブレーキを踏んでして後ろをを振り返る。 「ぎゃあああーーーーーーーーーーっっっっ!!!」 急停車による慣性で一同が傾いた刹那、比呂美は先ほどまで肌を合せていた男の睾丸を渾身の力で握りつぶしたのだ! 甘い淫欲の空気を一変させる断末魔で一瞬、男たちは思考を停止する。 その隙をついて比呂美は一番傍に男の鼻に向かって掌を打ち込む。鼻骨が陥没し脳まで刺さり、意識を失う。 残るは運転手を含め4人。友人を破壊された怒りで男が無理やり掴みかかるが、狭い車内と転がる男たちのせいでうまくゆかない。 比呂美は小柄なフットワークを活かして、2人がかりにならないよう体勢を入れ替えながら、 その男の小指を捻りあげると流れるような一連の動作で肘と肩を極め、その行動を完全に支配し、他の男たちの盾にする。 「いでええええええ!!!やめろやめろやめろぉ!」 「全員車から降りて!」 捕まった男は幼児のように顔中から液体を滴らせ、許しを懇願する。 一方、他の男たちは友人を助けようか算段したものの、このままでは全員の将来が危ういと思うや、見捨てることを無言で決めた。 怪物は純粋な興味からその様を観察していた。 強制繁殖は珍しくもないし、特にこの惑星の知生体間ではその傾向が顕著である。 しかし、大概においてひたすら蹂躙されるばかりの片方が、 たった今、圧倒的不利から逆転の兆しを見せたことに戦士として関心を覚えたのだ。 ザグッ 「げぼっ」 比呂美に拘束された男は無条件に仲間が助けてくれるとばかり信じ込んでいたが、別にそんなことはなかった。 男の一人が椅子の下に隠していた大型のアーミーナイフで彼の肝臓を抉りこむように突き刺し、暴れないよう絶命させる。 彼らが殺人をしたのは初めてではない。時折、頑なに抵抗する女子や、その彼氏などは配慮無用とばかりに 暴力を楽しんだあと、海なり山なりに捨ててきた。そして刺した男は特にそれをばかり楽しんでいた。 「おまえ死姦してやるよ」 死体となってしまえば盾となる体は重い肉袋である。 だが比呂美は偽装の淫行に興じる間、この展開も予想していた。 ナイフ男が刺したのと合わせて、死体を足で突き飛ばす。ナイフ男の体勢が崩れたと同時に、挟んだ死体の隙間から パンッ! と手の甲で相手の眼に叩き、顔を背けた刹那、耳に中指を突き刺した。 「うをわああああ!」 「てめぇ!」 「外に引きすりだせ!」 運転席と助手席の男たちも懐から武器を出すと、一旦車から降りる。 ナイフ男は痛みでガムシャラに暴れるが死体がぐったりと突き刺さり、蛇口のように垂れ流れる血も 手をヌルヌルにして一向に凶器を引っこ抜けない。比呂美も水溜りのように辺りを濡らす血にずっこけながらも、 まるでナイフ男に抱きつくようにタックルをかけ、重心をずらし、必死に腕力で圧倒されないようぶつかってゆく。 「うおおおおおおおおおおおおおっっ!!!」 比呂美の心の深く暗い奥底、あらゆる不幸や忍耐によって生まれた醜い真っ黒い獣。 残虐な本来の彼女、その猛獣が理性という鎖を無理やりに引きちぎり、産声を上げた。 「がっ!げぼぼぼぼ・・・げむ」 時計の針にすればほんの一振り。1秒に満たない時であったが、その間に比呂美は必死に抵抗する相手の腕の間を水のように縫い、 果実を摘むようにして喉を細い指で潰した。ナイフ男は陸に上がった魚のように痙攣しながら血が喉に詰まって息絶えた。 後部座席のドアが左右から勢いよく開かれる。が、男たちは仰天する。 ほんの一瞬、外に出て回ったら、車内は塗装したように真っ赤になり、先ほどまで少女を殺そうと暴れていた男はゼンマイ人形の ようにバッタンバッタンとのたうつばかりであったのだから。 「おいっ、そこっ!」 「へ」 シュッ ドアの隅に身を寄せていた比呂美は隠れるというにはお粗末だったが、凄惨な光景にショックを受けた男たちには精神的に死角だった。 あれだけナイフ男が抜こうとして出来なかった、死体に抉りこんだナイフをあっさりと抜き取っていた彼女は 力むでもなく、撫でるようにして左側のドアから来た男の頚動脈を裂いた。 噴水のように鮮血が比呂美の全身を彩っていくが、それを気にも止めず、もう一方に向き合う。 「狂ってやがる・・・」 とうとう残り一人となったレイプ集団だが、これまでのようにはいかない。 腹が据わった相手となれば、体格で劣り、疲労も困憊している比呂美が正面から当たっては勝ち目はない。 「ここらでお終いにしようや。俺は出て行く。おまえは帰る。な、もう会うこともないだろ?」 「悪くないけど・・・やっぱりあなたには死んでもらうわ。刺し違えてでも」 比呂美は血でドロドロに汚れたアーミーナイフを、今さっき屠った男の服で拭うと、 その男が使うはずだったチェーンを片腕に巻いて車から降りる。 全裸に人の血で真っ赤に染まったその姿はさながら血化粧をしたネイティブ・アメリカンの歴戦の戦士のようである。 怒り、悲しみ、憎しみ・・・あらゆる感情が顔面に沸き起こり、それらが殺意という意思でひとつにまとまったとき、 彼女の口には知らず笑みが浮かんでいた。 「・・・傀儡めっ!」 出会ってから10分と経たない男女が始めた狂気が佳境に入るなか、 その空気を日常とする怪物は彼らの息遣いが感じられるほど傍まで近づいていた。 月明かりと遠くからの外灯のみが頼りではあるが、 2人がよく注意すれば、すぐ傍らの闇に光る眼と、擬態によって歪んだシルエットを見たはずである。 怪物は2人の─特にまだ成人にも至らぬ少女の─感情を、精緻な観測機能によって細部まで味わい楽しんでいた。 数分前までは地球上の至るところにいる凡庸な少女が、尊厳(この理由も誇りを重んじる怪物の好奇を誘った)を守るため、 先ほどとは全く別の生物へ‘変身‘を遂げたことを、発汗、体温、血圧などが如実に示している。 とはいえ相手の男との体格差は依然圧倒的であり、それは心気の変化だけで埋められるほど容易くはない。 それに先ほどまでの死闘は彼女の敏速な奇襲であり、対等な勝負ではない。 故にこの一戦こそ少女が単にキレただけか、それとも稀有なる真の戦士に覚醒したかを決定するのだ。 ガギンッ! 最後の男が放った金属バットのから一戦が空を切り、ガードレールに火花をたてる。 比呂美も隙を突いて間を詰めるが、男の膝が余力を溜めていると感じるや、後ろに跳んで安全を保つ。 男も体勢を立て直すとバットを腰を沈めて構えなおし、再びジリジリと距離を詰める。 男は値の張る運動靴を履き、バットも使い慣れている。高校時代は野球部で汗を流し甲子園まで行った。 結局、スポーツでは一流になれず、流されるまま爛れた大学生活を送って輝いていた栄光は、今や苦痛でしかなく、 旧友とも顔をあわさず思い出すことも今ではなくなっていた。 しかしとうに忘れた筈の‘負けることは死ぬに等しい‘と思っていた緊張感がフツフツと蘇ってくる。 泣きたいほど逃げ出したい困難に全力で踏み出す快感。 思えば惨い最期を迎えた友人は、行いからすれば当然といえる。というより、所詮法の器だったわけだ。 罪に対する罰、世の定法を破るものこそ世を動かすに相応しい器。そう、彼女はその試練なのだ。 彼もまた比呂美の殺意に中てられて、雄の野心が目覚めていた。 今宵、闇には獣が3匹現れた。果たして最後に立っているのは誰だろうか。 (眞一郎くん、会いたいな) 今、踵を返し、この場から逃げたら追いつかれるか。だが大声で助けを呼びながら逃げればうまくゆくかも。 男も人が来れば当然‘逃げる‘。いや、可能性さえ示せばいい。実際に助けがこなくても。 それだけで自分は家に帰り、命を拾える。 「あっ、お巡りさん!助けて!」 小学生のようなフェイクだが、比呂美の鬼気迫る演技、女の仮面によって男は刹那、注意が反れた。 瞬間、比呂美が左腕に巻いたチェーンがムチのように唸る。 ヴオンッ!ギーーーン! 男も咄嗟にバットでガードするとステップを踏んで豪腕なスイングをかける。 殴ることに特化した鈍器はガードしても、そのまま比呂美の身体は叩き潰せるのだから。 が、男の身体の外側に比呂美は入っていたので、バットは腕の力のみのスイングになる。 なんなく比呂美は交わすと、男の膝を横から踵で蹴りを入れた。 「がうぁっ!」 男が下からバットを切り上げたときには比呂美は既に安全な距離まで退いていた。 ナイフという古来の凶器に注視していた男は読み抜かれ、膝の健に傷を負う。 「っのゲロくせぇガキがああああ!!!」 か勝利を確信していた男はこの手傷で怒り、痛みを消して襲い掛かる。 今の瞬間こそ比呂美がこの狂気から離脱する最後のチャンスだった。しかし自分は‘人間‘として彼らに侮辱を受けたのだ。 比呂美はチェーンを巻いた左腕を前に伸ばし、ナイフを取る右腕を顔の傍に構え、相手にとって身体を横に向け構える。 腕で体までの空間を作り、男の横に回りながら豪風のような振りを紙一重、しかし確かにかわす。 日々の練習の積み重ねが結実し、一撃で死に至る恐怖を前にしても、相手の動きを読むことに比呂美を集中させていた。 法という手の上で庇護と裁きを」受けることは誇りさえ他者に保障してもらうことで成り立つと比呂美自身が認めてしまうことだ。 それだけは許せない。 全ての権利や自由が奪われてるのは我慢できても、自分が心を持っていることだけは放棄できない。 だから自分を玩具のように扱った彼らは比呂美自ら殺さなくてはならないのだ。 「(今!)」 防戦一方だった比呂美が針の穴を刺す正確さで腕から蛇のようにチェーンを飛ばし男の親指を砕いた。 「だがぁっ!」 しかし比呂美の注意がバットにのみ傾いた刹那、男は肩を向けて体当たりで駆けてきた! 迷いなくナイフを伸ばす比呂美だが、 男の動きが先立ったため、凶器は男の腕を掠っただけで、比呂美はその力をもろに受けて弾き飛ばされる。 「ひやっっ!」 受身もとれず派手にすっころんだ彼女はそれでも間髪置かず立とうとするが、 「遅ぇんだよっ!」 ドグァ!!! それより速く彼女の腹に男の分厚いシューズがめり込んだ。 「ゲッおあ!」 少女の体は宙に浮き、腹が万力で捻られたような痛みが脳髄を焼き、溜まらず吐しゃ物を撒き散らす。 「ゲェエええええええおおおあっ・・・」 「どうしたアマァ!」 しかし男は容赦なく比呂美のわき腹にも蹴りを叩き込む。 「~~~~っがぶぃ!」 今度は体を捻って直撃は避けたが、それでも体を内側から燃やされたような痛みで失神しそうになった。 息も絶え絶えになり、武器も投げ出して体を縮める。 「ハァ・・・お、おね・・・がい、もう・・・許してぇっ」 「許すかバカ」 とうにやめたとはいえ、指を砕かれては2度と野球はできない。その怒りはおよそ形容できるものではない。 もはやべったりと地に張り付き、鈍くのたうつしかできない痣だらけの少女に唾を吐き捨てると、 その顔面に向け80キロはあるその体重をのせた高速の踵蹴りを落とした。 比呂美は顔に風を感じた。淡い夜風でなく、突き刺さるような猛風だ。 瞳を開いたとき、有名メーカーのスポーツシューズの底デザインがゆっくりと視界を占めてくるのが目に入った。 成人男性の体重の乗った蹴りをアスファルトを背に頭部で受ければ頭蓋骨陥没か、腕で防いでも骨折は避けられない。 しかしかわすには体勢が悪すぎる。比呂美は思う。 死んじゃうんだ・・・私。どこにも行けず、何も伝えられず、ずっとずっと一人ぼっちで・・・。 ガゴォ! 怪物が嗤う。勝者が選ばれたのだ。 比呂美は避けようと身を捩る努力を捨て、打ち落とされた踵を真っ直ぐに見つめると、 その先が鼻に触れた瞬間、顎の下から伸ばした右手で踵を上に弾き、左手で脛を打ち切って、男の足を掬い上げた。 無意識の動作に比呂美自身驚いたが、生きたいという想いが思考を突破して、反射神経を呼び覚ましたのだ。 「のわっ!」 バランスを崩された男は宙に手を仰ぎながら後ろ向きに倒れる。 その隙を逃さない比呂美は腰を軸に、足で地を蹴りCD盤のようにアスファルト上を回転しながら、 蹴られたとき投げ出したチェーンを掴むと倒れるしかできない男の足を引っ掴み、目にも止まらぬ速さで縛り上げた。 「このゾンビがぁああああッ!」 男が悲鳴とも怒号ともつかない叫びであがくが、 両足に無理やり巻きつけられたチェーンはズボンの中で皮を破り、肉を裂き、骨まで食い込んでいた。 すぐさま比呂美は男をうつ伏せにして、両足を抱え上げ、海老反りの体勢にさせて体に圧し掛かる。 これでは如何な筋力差でも押し返せない。 「おぐう、やめろぉ、降参だ、です!すいませんごめんなさいごめんながぁがががが、げけこかかかかか」 ビキッッ 「ッッッッッッ!!!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 比呂美はそのまま限界まで男の足を抱え上げた。虫のように暴れ、泣き、許しを懇願する男の声もどこか遠いまま、 脊髄を折り曲げ、渾身の力で男の背骨を砕いたき、糞尿をズボンの内で垂れ流し、蟹のように泡を吐きながら男は白目を剥いて失神した。 怒りも悲しみも焦りもなく、ただ終わらせたのだと思った。 「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」 緊張が途切れると、マラソンを終えたように呼吸が荒げ、全身がチクチクと痛みで疼き、筋肉は鉛のように重くなる。 立つこともままならず、比呂美はなんとか倒れないようよろけながら、その場に腰を下ろすだけで精一杯だった。 実際のところ、バスケの試合に比べれば微々たる時間だったが、 比呂美にとってはこれまでの人生の全てをその間に圧縮したように思えた。 「は、早く、帰らないと・・・叱られちゃう、なぁ」 こんな真夜中に全裸で空の下にいれば凍死してしまう。生存の幸福を味わうのは帰ってからでも遅くない。 ふとそのとき、前方の空間に違和感を覚える。眼鏡越しにみるような奇妙な歪み・・・。 カルルルル・・・ 比呂美の全身に氷の刃を当てられたような悪寒が奔り、再び脳が沸き返る。 先ほどまでの死闘がぬるま湯のように思える絶望と理解。狩猟者と獲物の圧倒的差異を皮膚で感じた。 (い、いつから・・・・・・!?いた!ずっと、ずっとそこにいたんだ!!!) 野犬や幽霊などではない。確かに脈動して知性を持つ生き物! しかし人間の放つそれとは明らかに異質の空気。比呂美の目と鼻の先に2mをゆうに体躯は武器そのものだ。 獣とも機械ともつかない巨大な何かがそこに立ちながら見る・・・そう、比呂美の眼差しをじっと見つめていた。 「・・・お、女ですよ?」 比呂美はその異形と発せられた言葉のギャップに面食らい、素っ頓狂な声を出してしまった。 もし彼(?)が宇宙人で自分がファーストコンタクトを果たした地球人だったら、歴史に自分の間抜けを残してしまう。 幸い、その予想は半分しか当たっていないので杞憂だったわけだが。 どうでもいいことだが、プレデターの台詞は音声レコーダーから大雑把に出されたもので、もちろんそんな意図はない。 狩猟者として現地の観察を厳密に行うプレデターが偶然三代吉の家の前を通りかかったとき、聞こえたフレーズを録ったものだ。 可愛らしい子に対して賛辞だと思っているが、いろいろ誤解がある。 賛辞、そう─プレデターは比呂美の持つ芸術的なまでの残虐、生存本能の個性に感動を覚えていた。 もちろん死の危機に全力で助かろうとするのは、生命の原則といえる。 しかし多くは、現実を直視せずに盲目、無策で奇跡にすがる恐怖の奴隷だ。 死は法や幻想の枠に定まらない現実そのものであり、それに打ち勝つにはそれを観察し、理解し、想像して、動くしかない。 絶望のどん底でそれが出来る者こそ戦士なのだ。 キュゥゥゥゥン・・・・ 比呂美の眼前で空間の歪んだシルエットが青白い火花をちらせながら消えていく。 「・・・・・っっっ!!!」 そこから現れたのは紛れもない異種─体型こそ人に近いが明らかに違う。 葉虫類のような肌と爪、大型動物のように強靭な筋肉、不気味な装飾品、重甲な武器の数々。 それら全てが知性と凶暴性を併せ持つ生物の生き様を物語っている。 「オ、オンナデスヨ」 つい吹き出しそうになる比呂美だった。その面はないだろう。 「傷ついてる・・・深く」 比呂美は最初、プレデターの薄汚れた体表と異臭に若干胃もたれを起こしたが、よくよく思えば汚さでは今の自分もいい勝負だ。 慣れるとそこかしこに大胆な擦過傷や銃創が作られ、それを応急措置したのがよく分かる。 「あなたも・・・?」 スケールこそ違えど、ついさっき死線を越えたもののみ味わえる、息をすることへの安堵。 比呂美はいつの間にか目の前の怪物に奇妙な共感を覚え、その胸に手を添え傷跡をなぞっていた。 プレデターの着込む網タイツ型のウォーマーは吹雪の中でも体温を保てるのでとても暖かい。 寒かったのもあって、比呂美は温もりを味わうようにプレデターに肌を寄せる。 「あなたも生き残ったんだ・・・」 腰に下げた人骨─美術で使うような模型とは質感の違う明らかに本物─のアクセサリーに気付いたが、 今の比呂美は常人が抱く流血への生理的な嫌悪もなく、ただそこに至る歴史のみに関心している。 (さっきの男たちとは違う・・・覚悟と、高い誇りを持ってる) おそらくこの怪物は相当な数の人間を殺してきた。ヒーローとも思えないので大半は罪なきひとたちをだ。 しかし、それでもプレデターの強さそのものに比呂美の感情は憧れを抑えられなかった。 カルルルルゥゥ・・・カチッカチッ マスクの下で牙を打ち鳴らすプレデター。別にお喋りが目的ではない。 ただ、ふとした奇縁で見つけた誇り高い戦士に尊敬の証を示そうと思って姿を現したのだ。 この広大な宇宙、遠大な時間のなかで巡り合った逢瀬に微かな未練もあるが、そう暇でもないので切り上げることにする。 「これは・・・弾、ですか?」 懐からライフル弾を取り出し、比呂美の前に差し出すプレデター。 先日の戦闘で自分に深手を負わせた大事な一発だ。持ち帰って装飾品の一つにするつもりだったが、ふと彼女に貰って欲しくなった。 「あ・・・ありがとうございます」 一瞬、おまえの頭にコレをぶち込むぞ、という物騒な(この場ではまんざらシャレと思えない)ジェスチャーかと思ったが、 どうやら素直に贈呈品らしいし、断るのも怖いので頂いておく。 弾丸なんて持ってるだけでいろいろ面倒な気もするが、怪物の不気味なアクセサリーの数々を見ると一番まともに思えるし、 巨大な掌が繊細に扱って差し出す様を見ると、大切なもののようで少しばかり嬉しかった気もする。 ドシュッ 「・・・?」 プレデターの備える警戒装置が危険を発したときには、比呂美の顔は蛍光塗料に似た黄緑色の体液で濡れていた。 怪物の肩からそれは吹き出ていた。狙撃されたのだ。 「ヴオオオオオオオ!!」 プレデターの怒声が闇に木霊する。眠っていた動物たちは慄いて一斉に逃げ出す。 瞬時に迷彩装置が働き、虚空に溶け込むと、赤いレーザーが付近一帯をスキャンする。 熱源こそ感じなかったが、遥か彼方で微かに人影が身じろいだのを逃さない。 シュバァッ!! 肩に備えたプラズマキャノンが吼えると、そこから数百メートルを離れた茂みが青白く光った。 比呂美の目には届かなかったが、茂みにいた兵士にバスケットボール大の穴が開くのをプレデターは確認する。 「・・・何なの?」 一瞬のタメの後、離脱のためプレデターが鳥のように跳躍した。象も沈黙させる強力な麻酔弾を食らっていたが意に介さない。 その美しさにしばし比呂美は口を開けたまま呆ける。 が、突如プレデターは空中でもがくと、真っ逆さまに地上に激突して転がる。 ドグァッ!!ゴロゴロゴロ・・・ 「クアアアアアッ?」 見ればプレデターの全身を時価数億にも上る強靭なアラミド繊維の網が捕らえ、無数の鉤針が刺して、囚人のようにガッチリと逃さない。 バリバリバリバリ! すぐさま網に仕掛けられたバッテリーが黄色い高圧電流を放出し、プレデターの厚い肌から火が噴出す。 ステーキのような焦げた匂いと、熱気が立ち込め、されるがままプレデターは目覚まし時計のように震えていたが、やがて動かなくなる。 「ひどい・・・・・・、!!?」 それを待っていたかのように、カッと真夏の太陽のような閃光が比呂美の網膜に降り注ぎ、目を潜めた。 「軍隊!?」 どこから現れたのか、明らかに近所では買えない装甲車や、分厚い黒塗りのトラック、轟音と疾風を散らすヘリコプター、 そしてテレビかゲームでしかみたことのない黒尽くめに重武装の男たちが蟲のように遠くから現れ、ワラワラと集まってくる。 比呂美には知る由もないが彼らは日系企業、ユタニ社の非公式部門、 異星人の捕獲に何十年も費やしているプロジェクトの実行部隊だった。 世界中の軍事関連施設、地域に網を張り、富山駐屯地が急襲された数分後には動き出し、そこいら中を張っていたのだ。 地面に転がったプレデターは水をかけた炭のようにシューシューと煙を立てながら、マネキンのように転がってた。 さきほどまでの生命力は微塵もなく、もはや息をしているかさえ怪しい。 「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ!」 一方、比呂美は過呼吸にないそうなほどだった。 全身の血が逆流し、冷や汗が滝のように吹き出て止まらない。しかし腰をぬかし、尻餅をつきながらもなんとか状況を読み解く。 分かったのは‘関係ない‘である。 物騒な怪物と、物騒な集団。全く縁のない世界ではないか。 映画や漫画で夢想するだけのこの世の底の底、自分のいる周囲には生涯関わりのない世界の裏の裏に迷い込んでしまったのだ。 何故怪物が現れたとき、女の子らしく逃げ出さなかったのか。 朋世ならそうしたに違いない。こんな真似はどうせ石動乃絵の専売特許だった筈なのに、いつから同じワゴンに並んだのやら。 いや、不覚ながら現在は一馬身ほど自分がリードしてる始末だ。 気がついたら比呂美は自分から両手を上げ、地面に膝と頭をついて無抵抗をアピールする。 最悪の想像が総集編のようにオンパレードで頭を駆け巡るなか、震えながら目を閉じてとにかく次の事態をじっと待つしかない。 (眞一郎くん!眞一郎くん!眞一郎くん!眞一郎くん!眞一郎くん!) 意味も忘れたままに、愛しいらしい単語を呪文のように念じていた。 眼前の丸焦げ怪獣ステーキの仲間いりなど絶対にごめんである。いっそあのままホテルでレイプされていればどれほどマシだったか。 自分で作った散乱する死体たちが立ち上がってはくれまいかなどと、考えてしまう。 つづく truetearsVSプレデター2